非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 65

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第65章 もてなしの茶:

 

夜になった。姜恒はぼんやりと寝台に横たわり、耿曙は海東青の羽を真剣な表情でなでつけながら、鷹の耳元で何かささやいていた。姜恒は頭を傾け耿曙を盗み見た。

「好きなんでしょう。」姜恒が言った。

耿曙は言った。「違うったら。何度言ったらわかるんだ?」

姜恒は驚いた顔をした。「風羽を好きじゃないの?あなたがその子を見る時の眼差し、他の人を見る時と全然違うもの。」

耿曙:「……。」

耿曙は、姜恒がまた自分をからかって楽しんでいるのだとわかった。相手にしないことにして、小声で海東青に話しかけ、腕の上にとまらせると、その腕を横に伸ばしてしてそっと送りだした。海東青は手紙をつけて庭から空へと飛び去って行った。

 

とてもなめらかで瀟洒な動作だ。姜恒は耿曙が鷹を見るたびにその眼差しに優しさを感じた。「そりゃ好きだ。好きだったらなんだ?見ての通りだろう?」

「風羽を見る時の目は、私を見る時と全く一緒。」

耿曙はぽかんとしてから、すぐに顔を少し赤らめた。今回は姜恒の言うとおりだと認めて、寝台まで歩いて行き、横たわった。兄弟は肩を並べて横になっていた。

姜恒は耿曙の首にかかっている玉玦を引っ張った。なんだか犬の縄を引くようだ。そして目の前に置いて眺めた。耿曙は引っぱられて心地よくはなかったが、もがきもせず、横を向いて、一緒に、玉玦が放つ光の環を見ていた。

 

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数日後。姜恒の計画では、羅望と李靳に別個に会って、同日内に双方を引き入れなければならない。さもないと、情報が洩れた時、もう一方の警戒を引き起こすだろう。

李靳が掌握するのは城防軍二千万、羅望は五万の代国騎兵だ。羅望を説得できるのが一番いい。李靳はまあ、太子謐に丸投げしてもいい。

最悪の想定としては、2人とも死んでも屈しない覚悟で、どうしても従わないことだ。

「もし彼ら二人ともうんと言わなければどうする?」李謐が尋ねた。

姜恒は、「その場合は最後の一手しか残っていません。殿下、自分にできないことを、他人のせいにしてはいけません。私は安陽での例の暗殺事件以来、天下各国の国君が、奇妙な罠に陥っていることに気づきました。絶対に負けられないという罠です。私は殿下が負けを認められる人になってほしいです。」と話した。

 

李謐には姜恒が言葉にこめた意味がわかっていた。次の国君として、西川の兵権を握る者を服従させるのは、彼の責任だ。彼が羅望、李靳、双方に忠誠を誓わせることさえできないのならば、彼が継ぐ君主の地位はかなりあやういであろう。

その場合、彼らは周游と、潼関の下で待ち伏せている雍国の外援に助けを求めるしかなくなる。姜恒は彼に機会を与えた。自分がやるべき仕事ができないのを、誰のせいにすることができるだろうか。

「うまくいったら、姜先生はどうするつもりですか。」李謐は話題をそらした。どうやら、未来の代国君主は、兄弟を勧誘したいようだ。しかし代国に残れば、姫霜公主に直面しなければならない。彼女は本当に公子勝の恨みを捨てることができるのだろうか。

 

「俺はハンアルに従います。弟が残るなら、私も残る。俺は父ではない。父の罪を償うつもりはありません。俺には関係ないことだ。それにどうせ何をしても血の借りはかえせない。」耿曙は言った。

「血の借り?」李謐は耿曙の正体を知らない。単に雍国王子だと知っているだけだ。

今の言葉は姜恒の憶測が正しかったことを再度証明した。もし太子霊が諸国に密告して、耿曙を死地に追いやろうとしていたなら、代王に言わなかったはずがない。密告人は霜公主にのみ知らせた。李謐は知らないのだ。どういうことなのだろう。いったい誰が二人を孤立無援の境地に押しやったのだろう。姜恒は心の奥底で真相がわかりかけた気がしていた。

 

誰も李謐に答えなかった。李謐は慣れていた。王室内で太子として見られることはあまりない。特に自分の家族からは。彼は一国の王位継承者というよりは、まめでまじめな、家族のために働く長男だ。「では、羅将軍が了解しない場合は、」李謐は姜恒から渡された薬の小瓶を持って、再確認した。「それ以上何も言わず、毒殺するということか。」

「殿下は心を鬼にできますか?」姜恒は聞いた。

「君がそう言うなら、やるしかないだろう。」と李謐は言った。「私は太子霊ではないからね。私を助けてくれる人たちに手を下させるつもりはないよ。」

この話に姜恒は感じ入るものがあった。軽く息を吸って笑みを見せた。信頼されたことに感動した。「やはり私がやりましょう。」

姫霜は真剣に言った。「文を出しますね。大兄様、あなたはやり遂げると信じています。」

 

姜恒は手紙を出した。姫霜の侍女に託し、羅望を公主府に来させるようにしたが、自分は表に出なかった。午後になり、羅望はあの密道を通って公主府に来た。そして何が起きているかを知った。手紙には「私的な約束」とだけ書いてあったため、羅望は警戒せず、護衛を一切つけなかったが、公主府にに入った時、後戻りできない羽目に陥ったと知った。李謐に会った瞬間、羅望は動揺した。「殿下?」羅望の声は震えた。

「羅叔父上、」李謐は姜恒の指示通り、羅望にひざまずき、懇願した。「羅叔父上、私を助けてください!」

羅望はあわてて李謐を助け起こし、声を震わせて言った。「殿下、いったいこれは、どういう?私…末将はわかりました…殿下、あなたは…。」

軟禁されていた太子が失踪した。朝廷は当然震撼した。李宏の下した決定は彼の気性そのものに厳しい。情報を封鎖し、国を出るすべての道を厳しく調べよ、というものだ。

 

李宏は、失踪した息子が西川におり、反逆の準備をしているとは夢にも思っていなかった。彼の認識では、4人の息子は、誰一人として位を奪う勇気を持たない。李謐が行くとすれば、郢国ではなく、雍国だろう。そこで剣門関外、嵩県への道、北方、潼関への官道は、重点的に封鎖した。西川城内は、むしろすべてが元のままだった。

羅望は「出て行くと決めたのなら、どうして戻ってきたのです?」と、同情露わに尋ねた。李謐は「羅叔父上、私は初めから出て行く気などありません。私は代国の太子です。国家と生死を、存亡を共にするつもりです。」と声を低めて言った。羅望は沈黙したままだ。

李謐は切々と訴えた。「羅叔父上、どうか私をお救いください。それは、代国一千万の民を救うことでもあるのです。この戦は止めさせないと。羅叔父上、あなたなら、誰よりおわかりのはずだ。あなたはかつて、何十年も苦労に苦労を重ねて備えてきた。でも一旦戦争が始まれば三十年もの蓄積は一日にして消えてしまう。」

 

羅望はため息をついた。「殿下、望まないわけではないのです。力が足りず、お役には立てません。」姜恒と耿曙は屏風の後ろに座っていた。このやり取りをきいた耿曙は何も言わず烈光剣に手を伸ばした。しかし姜恒は耿曙の背中に手を置き、お茶を一杯勧めた。落ち着いて、緊張しないでという意味だ。

 

李謐はがっかりして言った。「そうでしょうか。」

羅望はしばらく李謐を見つめて、長く息を吐き、小声で言った。「殿下、もう何年か待てば自然に手に入ったものを、なぜこのような行動に出られたのです。」

李謐は、「その何年かで天地を覆すような変化が起こることを知らないはずがないではないか。最もこの道理を理解すべきは、父王だ。今の代国は、まだ準備ができていないのに。」と述べた。

羅望だけでない。朝廷のすべての大臣も、心の中ではよくわかっていた。代国の富国強兵は、30年前、公子勝が変法によって基礎を築いて始まった。代国が台頭して、わずか20年だ。覇者の一つになるのは容易でも、出兵して天下を争うには実力がまだまだ足りない。

もし代王が公子勝の計画に従って、道を歩き続けたならば、一代、もしくは二代後で、東方四か国に匹敵する国にはなれただろう。代人にはまだ天下を争う資格はない。もう少し時間が必要だった。「時間は人を待ちません。」羅望は卓の上の茶を飲みもせず、ため息をついた。

どちらも賢い。羅望は太子が危険を冒しているのはよくわかっていた。いったん失敗したら命はない。この瞬間、羅望は自分の危険は忘れて、誠実に李謐を説得した。

 

「逃げてください。殿下、西川を離れるのです。姫霜と一緒に逃げてください。母方の叔父上の家に行きなさい。」姫霜の母は鄭人、李謐の母は梁国人だ。鄭、梁二国はいずれもこの窮地に落ちた太子を引き取るだろう。李謐は答えず、お茶を一口飲んだ。

 

「姜恒はどこですか。早く気付くべきだった。彼があなたを尋ねて行くだろうと。」

「さすがは羅将軍です。」姜恒は屏風の後ろから言った。

羅望は驚かなかった。姜恒は屏風の後ろから出て、李謐に合図した。李謐は例の手段を下すのだとわかり、仕方なく立ち上がって部屋を出た。

姜恒は急須を変えて、お茶を入れ直した。自分で用意したお茶を一つまみ使った。

「君は彼をそそのかすべきではなかった。昨日、汀丘離宮に刺客がいると聞いた時、君たちだと思った。」と羅望は言った。

「羅大兄さんにはお子さんがいますか。」姜恒は突然尋ねた。

羅望は質問に答えなかった。「他国の者が、我が国の太子殿下に堂々と謀反をそそのかし、国君と対立させるとは。君たちは王に車裂きにされるだろう。出て行きなさい。生きているうちに、すぐにこの国を去るのだ。」

姜恒は笑って説明しようとした。しかし、羅望は「君の護衛は、きっと今、剣を持って屏風に身を隠しているのだろう。だが私を殺しても仕方ない。君たちはことを簡単に考えすぎている。吾王は長年代国を守ってきた。彼のやり方でだ。彼にとって、私は剣にすぎない。剣が折れたら、他の兵器を選ぶだけだ。しかももし手ぶらで出陣したとしても、君では決して彼の相手にならない。」と言った。

 

姜恒は羅望の言葉を聞き終えると、「羅大兄さんのご忠告に感謝します。好奇心からですが、ちょっと聞いてみたいことがあります。」と笑った。

羅望は目を細めた。「君は確かに鄭人ではない。吾王はあの日王宮に帰った後、鄭国商会の頭領に、君について問いただした。彼らは、君は郢国人で、江州から済州に行き、太子霊の下に身を投じたと言っていた。だが、君は郢国人でもないな。君は一体誰なのだ。」

姜恒は淡々とお茶を飲みながら、言った。「羅大兄さん、あなたも代人ではありませんよね。」羅望はずっと姜恒と話をしてきたが、ついに怒って、卓に置いた剣の柄に手を伸ばした。「姜恒、君の護衛が私の命を取れると本気で思っているのか?」

姜恒は苦笑した。「羅大兄さん、どうして何か言うたびに、いつも殺人の話になってしまうのでしょう。あなたは手練れだ。説得できないからと言って私が手出しできるはずがありません。それに、正直に言って、あなたを殺すかどうかは、太子謐と霜公主にかかっています。彼らの同意なしに、私が代国で人を殺せるはずがないでしょう?」

羅望は最初かなり怒っていた。姜恒を信頼していたから、ひそかに会ったのだ。姜恒が彼を騙して危険な状況に陥れるとは思わなかった。

「私にはただ好奇心があるのです。教えてください。羅大兄さん、お子さんはいますか。」

羅望には姜恒の意図がつかめなかったが、答えた。「いいや、一体なぜそれを気にするのだ?」

「羅大兄さんには奥様がいますか。」

羅望は眉を上げた。姜恒の考えを推し量っていたが、唇を震わせながら、一言吐き出した。「いない。」

「ああ、」姜恒は疑いの目で羅望を見て、「私にはなぜか、羅大兄さんがある人のように思えるのです。」と言った。羅望の顔色が少し変わったが、すぐに元に戻った。

 

姜恒は「大兄さんは私がどこから来たのか気になっていますよね。実は、私は郢人でも鄭人でもありません。私はとても辺鄙で世間から隔絶されているような場所から来ました。そこは『楓林村』というのです。」と笑った。

羅望は一瞬にして色を失った。姜恒はこの様子を鋭く捉えた。自分が問題を理解する鍵を見つけたとを知った!

 

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いじわるいじわるいじわる姜恒。結構性格悪い。