非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 62

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第62章 不速の客:

 

「君があの、」李謐(ミ)は刺客の名を知らない。父から大まかな話を聞いただけだが、直感的にはこの少年は簡単な人物ではないという気がした。姜恒はそれ以上何も言わずに、「こちらへどうぞ」というしぐさをした。来る前に耿曙とは話し合っていた。もし李謐が李宏の権威を恐れて、行かないと言い張ったらどうするか。気絶させて連れ出したところで、力づくで謀反を起こさせるのか。そんなことは無理だが、姜恒には彼を説得できる自信があった。

 

耿曙は外で「もう時間がないぞ。」と言った。

姜恒は李謐を見て、「これが唯一の機会です。太子謐、後で後悔しても、父王殿はきっと離宮の警戒を強化するので、私たちは二度と入って来られないでしょう」と言った。

李謐は長いため息をついてから、黙ってまた数呼吸し、最後に彼はうなずいた。姜恒は、決断の速さは、李宏ゆずりだと思った。

 

「まずは私を連れ出してくれ。残りは、外に出てから話そう。」と李謐は言った。

耿曙がすぐに戸を押して入ってきた。手に持っていた侍衛服を李謐に投げ、彼に着替えてもらうように合図した。

「彼らはもうすぐ偏院に入る。あんたたち二人は中に入って。」耿曙が言った。

海東青の距離がだんだん近づき、すでに誰かが見つけて、別院を包囲し始めた。

「早く。」李謐は侍衛服を羽織った。耿曙が剣を抜き出すと、李謐は一目で理解した。「霜児が君たちを来させたのか。なぜ早く言わなかったんだ。」

姜恒は言った。「殿下にその気があれば、誰が来ても同じでしょう。殿下が行くのを固辞するなら、誰が来ても無駄です。」李謐は冷笑して、「剣をくれ。」と言った。

耿曙は「いいえ。これしかありませんので。」と答えた。

 

「刺客がいる!」たちまち、侍衛は叫び声をあげ、強弩を手に庭の壁に上がってきた。姜恒はすぐに李謐を引き出し、彼を盾にした。「矢を放ってみろ!太子を射抜いて罰を受けるがいい!」

李謐:「……」

侍衛:「……」

侍衛たちは、敵が太子を盾に使うとは思いもよらなかった。その時すでに、耿曙が、ひらりと壁に上がり、烈光剣を振りかざしていた。寒光が瞬く。姫霜の言う通り、確かに不世出の神兵だ。月の色を映し、鉄を泥のように切る。どんな兵器でも半分に切ってしまう!

 

侍衛たちは悲鳴を上げて壁から落ちて行った。鮮血が壁の上にあふれた。「早く行こう。」姜恒は剣を拾って、李謐に投げ、彼を押して照壁を迂回した。耿曙は壁から飛び降り、早足で前方へ偵察に行き、外の音はだんだん小さくなっていった。

「刺客がいる!」遠くから別の叫び声が聞こえてきた。

李謐:「君たちの仲間か?」

姜恒:「……」

姜恒は耿曙と視線を交わした。耿曙は「他には誰もいない。私たち二人だけだ。誰か来たのか?誰なんだ?」と言った。姜恒は即断した。「彼らは私たちを追うために侍衛を呼びに行った。早く行こう。」姜恒は別の道を選び、廊下を突き抜けたが、その時、庭園の地面には侍衛がいっぱい倒れていた。

姜恒:「!!!」

李謐は足を止めた。もう少しでつまずいて倒れそうになった。「君たちは私を救うために、何人殺したのだ?!」

 

「私は殺していない。そんなつもりもない。」

耿曙は頭を上げて、東北角を眺めた。海東青がまっすぐ飛んで行く。「あっちは人が少ない。東北から包囲を突破する!」

耿曙は屋根に飛び乗り、弩矢を持って待ち伏せしようとしていた侍衛を蹴り落とし、姜恒を引き上げた。姜恒は手を伸ばして李謐を引こうとしたが、李謐は何度も部屋を振り返った。

「私は大丈夫。」と李謐は喘ぎながら言った。「心配しないで!気をつけて……気をつけて、前を見て!」

「あそこだ!」と誰かが叫んだ。

ますますたくさんの人が上がってきた。耿曙は深呼吸すると、剣を収めて、身を翻して屋根の上に足を踏みこんだ。瓦が跳ね上がった。続いて掌を突きつけると風が掃いて、瓦が空一面の流星のように砕け、飛び散った!

             (20歳前の童貞でも修行すれば魔法使いになれる?)

何とも不思議な技だった。羅宣でもこんなことはできない。姜恒は目を見張った。耿曙は「何を見ている?行くぞ!」とせかした。姜恒も我に返った。後ろから抱えられて、二人で軒を滑り降りた。もう一人を忘れてはならない。「太子は?」

「自分から放っておけと言った。幸運を祈ろう。」耿曙は言った。

李謐が息を切らして、「待ってくれ!」と追いついてきた。

しかし、下りてみれば、平地の侍衛はかなり片付けられ、多くは横になって倒れていた。

しばらくすると、今度は南西の角から「刺客はここにいるぞ」と叫ぶ声がする。松明は南西、南東の2つの方向に進んでいく。耿曙が言った。「他に2人いるのはどうしてだ?なぜ今夜はこんなに何人も来ているのだろうか?」

 

救兵は彼らを気にもとめていないようで、東南の角に火を放った。風が吹くと、煙が上がり、離宮内はたちまち混乱した。彼らは急いで離宮から出て行った。

耿曙は腕を広げて、鷹のように宮壁から降りた。哨を吹くと、戦馬が走ってきた。耿曙と姜恒は一緒に1騎に乗って、李謐を別の1騎に乗せた。

「俺たちについて来てくれ。」耿曙は言った。李謐は振り返って離宮を見たが、最後には手綱を振って、二人について行った。

 

海東青が空高く飛びながらついてきた。東の空が白みかけた。耿曙は首をひねって、後ろにいる姜恒に向かって「今から町に帰るか。」と尋ねた。

「騒ぎが大きくなりすぎた。状況を見てみよう。」

今回の救出劇は姜恒の最初の計画からは外れた。本当は気を失った李謐を運び出そうと考えていた。それなら発見されるのは夜が明けてからで、彼らも機会に乗じて西川に戻ることができたはずだ。だが夜中に騒ぎがあれば、西川はすぐに厳戒態勢に入るに違いない。

 

八十里の道を疾走して、西川城外に着いた時には、空はすっかり明るくなっていた。三人は城外の鐘山の麓、隠れた山の斜面で馬を下りた。城門の入り口はやはり取り締まりが厳しくなり始めていた。三人はまだ離宮の侍衛姿だった。耿曙は姜恒に「今度はどうする。」と尋ねた。李謐もそれを見て、「二人のどちらが決めるんだ?二人は主従の関係なのか?」と尋ねた。「黙れ。」耿曙は冷たく言い放った。離宮に入ってから、耿曙は李謐とちゃんと話をしなかった。李謐はこれが将来の義弟だとは知らなかった。

 

姜恒はあきらめきれなかった。3つの腰牌を盗もうとか、変装して御林軍になりすまして紛れ込むか、風羽に偵察させ、耿曙に城壁を超えさせ、羅望に迎えに来てもらうとか考えた。

耿曙は「危険を冒すな。捕まえられたら、もっと面倒になるだけだ。」と言った。

姜恒は「じゃ嵩県に帰るしかない」と言った。

 

突然、耿曙は烈光剣に手を置き、ゆっくりと剣を引き、振り向いた。

姜恒も振り向いた。手を伸ばして、李謐をかばい、二人は耿曙の後ろに下がった。

山の斜面の後ろの茂みに、姿が現れた。姜恒は以前彼を見たことがある。この人の印象はあまりにも強い。歪んだ目鼻や口元、顔の傷跡。5年前に洛陽であわただしく見ただけでも、忘れられなかった。

 

「小太史の妙案に支障が出ました。」背の高い刺客は言った。「どうしましょうかねえ。」

それはまさに界圭だ。界圭は毛織の帽子をぬぐと、怪しげで心の底が寒くなるような笑顔を見せた。「周游が城内の宿場で殿下を待っていますが、もしよろしければ、私が皆様を町までお連れしますが?」

李謐はその言葉を聞いて驚愕し、姜恒を見て、また耿曙を見た。界圭が現れた時、耿曙は別の身分を取り戻したかのように冷たく言った。「いや、彼には町にいてもらってくれ。」

界圭は笑った。「それはいけません。周大人は私に手紙を持ってきてくれました。殿下は私たちの苦労にご配慮ください。」

「兄さん」姜恒が口を挟んだ。その「兄さん」という呼びかけを聞いても、界圭は何も驚かないどころか、「やっぱり」という顔をしていた。耿曙は姜恒を一目見て、眉を上げて『お前はそれでいいのか』と暗に問うと、姜恒はうなずいて、「彼と一緒に行こう。」と言った。界圭は「どうぞ」という動作をして、3人は彼の後ろについた。

 

 

「なんというか、」姜恒は率先して界圭の後ろにつくと、気だるげに言った。「あなたたちもよく来たよね。王家の刺客って、そんなに暇なの?王族を守らなくていいの?」

「私もこんなところまで足を運びたくありませんが、私たちの大雍王室の兄弟は仲良しでしてね。太子殿下は兄君を本当に心配していて、私をよこしたというわけです。」

界圭は3人を城外の堀が干上がった河道に連れて行った。この河道はちょうど鐘山の下にあり、排水口につながっていた。排水溝に入るとひどいにおいがした。李謐は耿曙を見たが、耿曙は暗闇の中に隠れて顔を見せなかった。界圭と耿曙は、どちらもあの雪の夜の逃走と追跡について触れなかった。お互いに心の中でははっきりしていることだ。

「周游とは誰なの。」と姜恒は言った。

界圭が現れてから、耿曙は警戒した顔をして、界圭の後ろを歩いていた。そして終始手を剣に置いていた。「東宮の門客だ。」耿曙は姜恒に言った。「管魏との連絡係を担当し、代国と連絡を執っている。」

 

五か国間の関係は左相管魏が担当していた。ここ数年、内政外交は次第に東宮に移され、権力移行の準備を早めている。しかし今回の件は明らかに太子瀧の能力の範囲を超えており、左相が東宮に協力して、代国の情勢に影響を与えようとしていた。

「あなたは東宮の人なんだね。そうでしょう。」姜恒は耿曙に尋ねた。

耿曙は答えなかったが、界圭は「小太史、とても賢いですな。」と言った。

耿曙は小声で「ハンアル、俺の説明を聞いてくれ。」と言った。

耿曙は何かうまく言いたかったが、どう説明できるだろうか。事実はこうだ。雍国にいた4年間で、彼は政治的にも力のある若い将領になった。彼を育てた目的は、太子瀧の王権継承を補佐するためだった。死んだ兄の汁琅から王位を引き継いだ時、派閥内の争いに苦しんだ汁琮は、将来の朝廷の権力を確保し、唯一の息子の手にうまく集中させるようにしたかったのだ。姜恒は「説明しなくて大丈夫。すべてわかっているから。」と言った。

耿曙はこの口調を聞いて、姜恒が自分を責めているのではないとわかり、うなずいた。

李謐は暗闇の中で突然「君たちは雍国人なのか!」と言った。

界圭は「いいですね。太子謐も頭がいいです。」と言った。

李謐はまた言った。「聞き間違いじゃないのか?玉璧関で汁琮を暗殺したのは、雍国人なのか?」姜恒が「私は雍人ではありません。」と答えようとしたところ、界圭は「それは単なる誤解です。」と急いで答えた。

 

「誤解は多くの人を惨めにする。」と李謐は言った。「君たちはこの誤解をよく説明したほうがいい。」李謐の言うとおりだ。もともと代国は雍国と同盟し、姻戚になることにもなっていたが、暗殺が起きたことで代王は兵を出すことにした。さまざまな収拾のつかない混乱は、すべて姜恒が汁琮を刺したことから始まっていた。

「そのうち機会はありますよ。雍人がわざわざ助けに来たというのに、それだけでは謝罪に足りませんか。」界圭は言った。李謐は冷笑した。界圭は道の端にある木戸を押した。「着いたら、太子殿には驛館に足を運んただきたい。」4人は民家の裏庭に着いた。門の外に馬車が止まっていた。界圭は毛織帽をかぶって顔を遮り、自ら車を御した。耿曙、姜恒、李謐の3人は車に押し込まれ、雍国驛館の裏庭に案内された。界圭は白い息を吐いた。「今日は本当に寒いですね。太史大人、さあ、昔話でもしましょうか。」

 

 

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排水溝を通って城内に入る道を知っていたのは界圭だったのか。

読み直して今気づいた。界圭は結局のところ代国の人間でもないのにどうしてその道を知っていたのか?誰が教えたのか?プロット的に姫霜のはずはない。まあ洛陽が燃えていた時に、王しか知らない抜け道を出てきた姜恒を界圭が見つけたことを考えると、越人スパイネットワークでその手の情報を界圭は持っているのだと考えよう。