非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 71

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第71章 離宮への道:

 

彼らが西川城内に戻った時、全城市は戒厳令下にあった。李謐は大臣を招集した。姫霜が偽造した李宏の詔書を以て李謐は王位継承を成功させた。

李謐が言った。「父王は今頃汀丘離宮に隠居しているだろう。愛卿各位には、必要ない限り父の邪魔をしないようお願い申し上げる。」

臣下たちは既に心得ており、口々に「はい」と言っていた。李谧は宮殿の外に沈む夕日を見て、また長いため息をついた。

 

「大丈夫なの?」姜恒は耿曙の手をひきながら見て、それが羅宣の手袋であることを何度も確認した。「師父はいつあなたに渡したの?」

耿曙は答えた。「さあな。兵士が持ってきた。本当は使いたくなかったが、生死を分ける決闘になるなら使わない方に賭けるわけにもいかないだろう。どうやって返す?お前が持っていてくれるか。」

「師父と何を賭けるっていうの。体は大丈夫?」

「つまらないことを言うな。俺は天下第二だぞ。」そう言いつつ、ふと耿曙は思いついた。もし怪我をしたふりをしたら、姜恒は心配してやさしくしてくれるんじゃないか?「ああっ…あばらの下がちょっと痛い。」姜恒は慌てた。「どこが?見せて見せて。」

「お前に怒った時かな。」耿曙は顔をしかめた。姜恒の手を袍の中に入れさせ、「この辺が……」「どうしよう。この辺?」

耿曙の傷に影響しないように姜恒は手を伸ばしてやさしく撫でた。耿曙は自業自得だ。くすぐったくて大笑いしながら、姜恒の手をつかんだ。姜恒は耿曙が彼をだましていることに気づき、「脅かさないでよ!」と怒った。

すぐに耿曙は姜恒を抱き寄せ腕の中に包み込んでぎゅうぎゅうとしめつけた。

耿曙はこの戦いによって、間もなく天下に名を轟かすに違いなかった。その生い立ちは、もう隠すことができない。姜恒は彼の執着を知っていた--最初からわかっていた。聶海という名で呼ぶのはいい。だが、別人として生きるのは嫌なのだ。自分は自分だ。自分と姜恒は耿淵の息子だ。父親が世界中から不倶戴天の仇とされていようと、こそこそ隠れるのは嫌だ。正々堂々と公明正大に生きていきたいのだ。

 

「この皇宮は本当に立派だね。」姜恒は何とか耿曙の腕の中からもがき出ると周りを見て歩いた。一件落着し、再び好奇心満々の子供になったようだ。「洛陽よりずっと立派だ。」

「代人は金持ちだからな。商いから税がとれる。雍の宮殿と比べても豪華だ。少し休みたいか?それとも冬至を祝いに行くか?町をぶらぶらしに行こうか?」

「行こう!お祝いに行こう。あの人も呼んで、あの、霜公主?」

「だめだ。」耿曙は間髪入れずに断った。

「羅将軍はどこだろう?」急いで駆けつけた李謐が、皇宮内でやっと2人を見つけた。

「あんたと一緒ではなかったのか。それを聞きにここへ?」耿曙が言う。

姜恒はひそかに、まずいことになっているかもしれないと思った。だが証拠は何もない。羅宣の事情に干渉することもできず、李謐に手をあげるしぐさをして見せるしかなかった。李謐はしばらく黙っていた。

耿曙:「心に恥じるところがあって出て行ったのだろうか?」

李謐は頭を揺らした。「いや、そんなことは……。まあいい。誰かに探させよう。お二方、ありがとう。」

姜恒が言った。「どういたしまして。私ももう行きます。」

「いやいや、もう少しいてください。淼殿下、ではなくて、えっと……あの年に起きたことについては何か説明をつけられるでしょう。」

この言葉を聞いた時、姜恒は李謐も知ったのだとわかった。彼らの出生はもう隠すことができない。耿曙も隠すことを望まない。復讐したいなら来い。死ぬまで姜恒を守るだけだ。

 

冬の夕方、姜恒は界圭の腕に当てた板を取り換えた。界圭は気にしていない。手を切ったり、刀傷を負ったりするのは、彼にとって日常茶飯事だ。

「私はあなたを守りはしませんからね。」界圭は言う。

「わかってる。復讐がこわいからね。」

界圭は遠慮がちにうなずいた。「わかっているなら結構。」

治療が終わったならどけと、耿曙は界圭の足を蹴って、自分が姜恒のそばに座った。

耿曙はまだ李宏を負かした勝利に浸っている。これは彼が天下無敵に近いことを意味する。何度も思い出しては姜恒に「李宏が年を取っていなかったら、俺は勝てなかったかもしれない。」と言っていた。

「その話は聞き飽きた。言うなら李宏に言えばいい。」

姜恒は耿曙をあまりほめなかった。無邪気に信頼しているからだ。これが耿曙の実力なのだから、驚くことはない。

耿曙の口元が少し反りあがった。姜恒を見ると、姜恒は彼の頭を押した。耿曙は押された頭をそらしては戻し姜恒をからかった。

「もう行かないと。代国に居座るのは安全じゃない。」

「行こう。けど、どこに?嵩県に帰るか?これは俺が言い出したんじゃないぞ。お前が言い出したんだ。」

姜恒はしばらく黙ってから言った。「明日朝一番に行こう。まず西川を出てそれから話す。」

 

夜になり、耿曙は荷物をまとめて灯の下で手紙を書いていた。

「界圭はどこに行ったんだ?」耿曙は眉をひそめた。

「私の手紙を届けてくれている。」

「手紙を?誰に?あいつはそんなにお優しいのか、お前の使いをしてやるほど?」

「雍軍にだよ。あなたを連れて帰って下さいって。」

耿曙は本気にせず鼻で笑った。「じゃ、お前とはお別れか?泣くんじゃないぞ。」

 

姜恒は寝台に横たわって、耿曙の烈光剣を見ていた。今のところ、手紙も剣も保留だ。李謐が王になれば、代国の出兵は止められる。--この太子は小さい頃から国君として育てられてきた。彼はいつ戦争をすべきか、いつすべきではないかよくわかっていた。これで五国の間に、危なっかしい均衡が形成された。

この均衡は、姜恒の手を借りた太子霊によって、一度破られた。その後の情勢は、姜恒の掌握から離れて、万難不滅の境地に向かって行くところだったが、幸いにも彼は再び均衡を作り直すことができた。

 

「寝よう。」耿曙は言った。姜恒は何も言わず、耿曙は灯を消して寝台に来た。

姜恒は言った。「兄さん、私があなたに真剣に尋ねたら、あなたも私に真剣に答えてくれる?」

耿曙は姜恒の手を握って顔を向けながら言った。

「お前に聞かれたことには、俺は一字一句まで真剣に答える。何だ、何が聞きたい?」

姜恒は軽い口調で尋ねた。「義父に会いたい?弟や雍の家の人たちみんなに会いたい?」耿曙は長い間黙っていたが答えた。「時々は考える。」

姜恒は「うん」と言った。少しも嫌な気持ちではなかった。理解できる。あの頃耿曙と一緒にいてくれたのは彼らだったのだから。

「あなたは汁琮に対して情がある。」

「だけどお前と比べたら、俺は全て捨てられる。そのために彼らが罵りたいなら罵ればいい。父の血の負債と同じことだ。俺が大切なのは一人だけ。俺はお前を守りたいだけだ。」

「今の話で心が決まったよ。」姜恒は笑って耿曙を抱きしめた。

「何が決まったんだ?」耿曙は姜恒を胸の中にきつく抱いて鼻をこすりつけながら小声で聞いた。姜恒は首を振って、目を閉じ、眠りに落ちた。

 

翌朝、二人が皇宮を出ようとすると、侍衛がすぐに李謐に報らせに行った。李謐はこんなことがあるかもしれないと思っていたようで、自ら足を運んだ。李謐は言った。

「こんなに急いで出て行くなんて、お別れもできないところだった。」

姫霜は李謐の後ろに控え、黙って二人を見つめていた。姜恒は国君に対する拝礼をした。

「陛下は代王となられましたので、お忙しいと思いお知らせしませんでした。」

李謐は聞いた。「耿恒、君はどこに行きたいんだ?」

「姜恒です。耿恒ではなくて。」

「俺は聶海。耿海でも耿淼でもない。」

 

李謐はしばらく話の深意を考えていたが、ついにうなずいて姫霜を眺めた。それまで沈黙していた姫霜は口を開いた。「父王に会いに行こうと思っていたのですが、お二人もご一緒しませんか。ちょっとした遠足だと思って。」

李宏は鐘山で耿曙に敗れた後、汀丘離宮に軟禁された。羅望は行方不明になり、新王朝は重将の一人を失った。李靳だけが残って調整していたが、再編した軍隊には、わずかに反乱の兆しもあり、李謐はまだ少し不安だった。

 

「行こうよ。彼にお別れを言いたい。あなたは彼を殺さないんでしょう。」

李謐は苦笑した。「絶対に。私が何と答えたか忘れたんですか?」

姫霜は耿曙を見た。「あなたはどうされますか?」

耿曙は答えた。「俺はいつも通り。ハンアルが行くところには俺も行く。」

 

この日、姫霜は武衣を着ており、英姿颯爽で人目を惹く美しさだ。「淼殿下の騎射の技は天下無双と聞いています。よかったら競争しませんか?」

耿曙は彼女と勝負などしたくなかったが、姜恒は兄に勧めた。耿曙を姫霜と先に行かせ、自分は李謐と馬を並べ、李靳の三千衛隊を伴って後を追った。

「姜恒、君は本当に代国に留まる気はないのかい?」李謐が聞いた。

二人の騎馬は後からゆっくりと汀丘に向かっていた。

 

「代国に残って何をするんですか?父のために贖罪をせよと?」

李謐はまじめに言った。「そんなことは絶対にない。」

「それでは陛下は私に残って何をしてほしいのですか?」

「君が目指すのは、国君を補佐して中原を統一し、五か国を結束させ、新たに天子となるべき人を探す。そして、民が平和に暮らせるようにすることだ、当たっているかな?」

姜恒はうなずいた。「そうです。そうでなければ、太子霊のために汁琮を刺殺しようとしたり、あなたの父王に兵を退かせたりはしません。」

「君と耿さん……失礼、彼を何て呼んだらいいかわからなくて……」

「聶海です。」

「君と聶海」李謐は言った。「一文一武、正に私が求める人材だ。ここに機会がある。それを生かしてほしいんだ。信念をもって当たれば君は公子勝が生きていた時代よりも代国を繁栄させられるはずだ。十年後、代国の全兵力を聶海に任せればきっと天下を統一できる。こんな絶好の機会があるのにどうして留まろうとしないのだ?」

「陛下は私たちを恨んでおいででは?」

「恨んでいない。君たちの父親を恨んでいるだけだ。」

 

姜恒が口を開こうとすると、李謐はまた言った。「耿淵は私の叔父を殺したように見えるが、実は殺したのは代国の未来だ。今また未来に新たに希望が見えた。だから私は憎しみを捨てて、叔父と父王が目指した世界を実現しなければならない。そのためなら彼のことは、私はもう気にしない。」

 

姫霜と耿曙はずっと先に行ってしまいもう姿が見えない。

姜恒は振り返って、衛隊がまだいることを確認した。李謐が今この時、待ち伏せに合って殺されたりして欲しくない。「どうして私が残りたくないのかわかりますか?」と姜恒は李謐に言った。李謐は眉を上げて、言ってくれと合図した。

「相応しい国君はあなたではないからです。と、いうか、私にとっては最上位の選択肢ではないのです。」

李謐が尋ねた。「姜先生にお教えいただきたい。私は何を間違ったのだ?」

「何も間違えていません。それが相応しくない原因です。暴君でも明君でもいい。何か間違いを犯すはずです。ある人にとっての間違いが他の人にとっては必須であるからです。」

李謐は考え込んだ。「よく考えてみよう。姜先生、本当に全く考慮の余地はないのか?」

姜恒は馬を早く走らせた。「あります。将来あなたもたくさん間違いを犯すだろうと信じています。その時にまたお会いしましょう。」

李謐は馬に鞭をあて、姜恒を追い越してはるか汀丘に向かって疾走していった。

姜恒は急がなかった。最後尾をしばらく走っていると李靳が追いついて来て意味ありげな視線を送って来た。

姜恒「???」

 

汀丘に着き、一行は馬を下りた。隆冬の節だというのに姫霜は全身に汗をかき、離宮でお茶を飲んでいた。「あなたの負けです。」姫霜が耿曙に言った。

「勝ちはあなたに譲ろう。俺はハンアルを見てくる。俺からあまり離れさせられない。」

李謐は前殿に入ると言った。「父王に会ってくる。一緒に行くかい?」

 

耿曙が立ち上がろうとすると姫霜は呼びかけた。「淼殿下、お待ちになって。」

耿曙が行かないなら、姜恒も当然行かない。そのまま前殿の外に留まった。李謐は頷くと、囚われの身である父、李宏を先に一人で訪ねて行くことにした。

姜恒は姫霜と耿曙の最後のひとときを邪魔したくなかったので、殿外に日を浴びに行くことにした。

外には李靳がいた。傍らに一人座ってぼんやりしていた。姜恒は李靳に笑いかけた。

「李将軍、この度は大変お疲れさまでした。」姜恒は李靳とおしゃべりでもして、彼の姫霜への気持ちや思い出話などを聞こうと思っていた。ところが、出てきた言葉に愕然とした。

「俺と一緒に行こう。」

姜恒「!!!」

李靳は言った。「海を越えて仙山や蓬莱に行かないか?」

姜恒は李靳に近づいたが、李靳は何の反応もせず、がらんとした校場に向かって、「彼は汁琮に育てられた。心はもうお前のところにはない。彼はもう聶海ではない。どんなに反論しようと、心の中では、はっきりしている。彼の名前は汁淼で汁家の人間だと。」

 

姜恒はやっと、事の次第が分かった。説得も寝返りもなかったのだ!李靳が快諾したのは、最初から羅宣に仕組まれていたからだ!あの日公主に呼ばれて来たのも羅宣だった!道理で彼はあんなに簡単に湘府に入って、自分の部屋に来られたはずだ!

「あなただったなんて。」姜恒は笑った。

「ああ。」李靳は下を向いて自分の手指を見ながら真剣に言った。「お前が城に来た時に会ったのも俺だ。どうする?俺と一緒に行かないか?」

姜恒は悲しそうに笑った。「あなたの言う通りです、師父。彼はかつて耿曙と呼ばれ、その後汁淼になった。ただ洛陽にいたあの三年間彼は私の聶海だった。」

 

李靳(=羅宣)「お前にはよくわかっているはずだ。彼がなぜ雍国を避け、直面する勇気がないのか。それは自信がないからだ。彼について行けば苦しむだけだぞ。遅かれ早かれ、彼の親父はお前を殺すよう彼に命じる、そして彼はお前に剣を向けることになる。」

「いいえ、師父。そんなことは絶対ありません。あなたはもう行ってしまうの?」

李靳は答えず、もう姜恒を見ようとしなかった。

「師父、お父上は?李謐から彼は失踪したと聞きました。」

李靳は黙ったままだ。

姜恒「やはりあなたが彼を殺したんですね。」

李靳「俺の親父だ。殺したければ殺す。」

姜恒は頷いた。そうかもしれないし、彼には首を突っ込む権利はない。

李靳は再び言った。「お前に機会をやる。姜恒、俺と一緒に行こう。今なら彼らをここに置いて逃げられる。」

姜恒「行きません。」李靳は頷いた。

「わたしは兄のそばを離れられません。汁淼でも、耿曙でも、聶海でも何でもいいのです。彼は彼、私の兄さんです。」

「本当に行かないんだな。」李靳は手指を上げて言った。「最後にもう一回だけ聞く。」李靳はようやく顔を向けて姜恒を見た。

姜恒は身なりを正し、李靳の前に跪いた。

「それなら、俺の手袋を返せ。」

姜恒は懐から手袋を取り出し両手で李靳に渡した。李靳が手を伸ばすと、姜恒は彼の手を引っ張って鱗の様子を見た。「あなたは先生と松華を探しに行くのでしょう?」姜恒は真剣に尋ねた。「海外に着いたら、彼らはきっと治療法をあなたに教えますよね。」

 

「ああ。」李靳は言った。「師父は長生不老だが、弟子はどうだかな。お前は本当にそれでいいのか。人は欲に目がくらみ、一生名声や金、権勢、天下を求めるが、死に際には長生を求めるものだ。答えはお前の目の前にあるのに、捨て置くつもりか?」

李靳は姜恒の顔を左手で覆い、顔を少し上げさせた。

 

姜恒は真剣にうなずいた。「はい、もうずっと前から決めていました。師父、この生涯ではあなたのお世話ができませんでした。やはりまたこれを言わせて下さい。『御恩には来世で必ず報います』」

李靳は皮肉った。「もうお前の世話をしなくていいのに、お前が俺の世話をするのを待てと言うのか?もう行く。かわいそうな李靳のやつは、公主府の密道の中に閉じ込められている。彼らに探しに行ってもらえ。」

 

言うや否や、姜恒の目の前で何かが光り、次の瞬間李靳は屋根に飛び上がってすぐにどこかへ消えてしまった。彼は急いで離宮の前校場を駆け下り、屋根を見渡したが、ゆうゆうと浮かぶ白雲、朗々とした青空があるだけで、羅宣はもうどこにもいなかった。

 

 

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羅宣はもうすぐ毒が心臓に達するのに姜恒を連れて行くなんて無責任だろうよ。