非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 64

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第64章 天子牢:

 

半時後、姫霜府にて。

「俺は公主には会わないぞ。お前も行くな。李謐に自分だけで行かせればいい。」

姜恒は姫霜の自分たちの父親への敵意を考えた。公主は兄に詳細を話すだろうか。しばらく黙ってから、このことでは耿曙の言うとおりにしようと思った。耿曙がずっと堅持してきたことなのだから。李謐が来たと聞いて、姫霜は驚いて色を失い、内庭から飛び出した。

「兄さん!」

「霜児(ショアル)!」

妹の姿を見た李謐は、急に悲しくなり、変装を解いて足早に駆け寄ると、姫霜を抱きしめた。姫霜は耿曙の助けを拒否してはいたが、心の奥底では兄が脱出できることを期待してもいた。離宮で騒ぎがあったと聞いた時は焦り、耿曙と姜恒が失敗して捕らえられることを心配したり、父王が激怒して脱出に失敗した兄を捕えて死を与えるのではないかと心配したりした。幸い李謐は無傷で安泰だし、兄弟二人も逃げきれた。姫霜は先日耿曙に言ったことを思い出して心の中で後悔していた。

 

耿曙の最初の印象は悪く、厳粛で冷酷、天下人を凌駕する傲慢さが見え隠れしていた。しかし次第に、だんだんと好奇心がわいてきた。あの平然とした態度、「あなたが私を殺したいなら、やってみればいい。堂々と受けよう、私は気にしない。」といった怖いもの知らずの態度に。昨日は、耿曙が去ってから、なぜか何度も何度も彼のことを考えた。心の中に後悔のような思いが消えなかった。

 

耿曙は離れたところにいた姜恒を引っ張って、前庭の階段に肩を並べて座った。

李謐と姫霜は部屋の中でしばらく小声で話していた。姫霜が押し殺したように泣く声が聞こえた後、しばらくして声はもっと小さくなり、庭の姜恒のところでは聞こえなくなった。

落雁に手紙を出したこと、私に隠していたでしょう。」姜恒は耿曙に問いただし始めた。「俺…は…」耿曙は口ごもった。「手紙を出したんじゃなくて、無事だと知らせただけだ。」

姜恒はまた海東青が飛んでくるのを見た。界圭が来た時点で大体のことは想像がついていた。耿曙はいっそ言い訳をやめて、珍妙に姜恒の目を見つめた。

「そうだ。俺が知らせた。悪かった、ハンアル。俺はただ思ったんだ…。」

「人には情があるもの。何をあやまることがあるの?」

海東青は剣門関から来た。手紙を持って帰ってこなくても、それを見ただけで、太子瀧には耿曙の境遇が大体推測できたはずだ。二人で一緒にいても、耿曙は落雁の『家』にもやはり感情があるのだ。

「俺はただ、いずれにしても、彼らに説明しなければならないと思っているだけだ…」と耿曙は言った。

「それ以上言わなくていいよ。あなたをせめてはいない。」

耿曙は振り向いて、姜恒を見つめた。唇が動いて、何かを確認しようとしてやめた。彼は姜恒が怒っているかどうかを観察したが、姜恒の表情は穏やかだった。

「すべて解決した。もう行こう。」耿曙は自分の過ちを埋めようとしているようだ。

「行くってどこに行くの?」姜恒は不可解に思った。

「嵩県に帰る。」

「行かないよ。まだ全て終わっていないんだもの。」

姜恒は耿曙を見た。急に思い立って、彼の顔をポンポンとたたいた。耿曙はこの簡単なしぐさから、姜恒が怒っていないとわかり、うれしくなった。ちょうど口を開けようとした時、姜恒は冬の光り輝く日光の下、耿曙の唇に口づけをした。

耿曙:「……。」

耿曙の顔は真っ赤になった。こんな触れ合いが二人はいつも大好きだった。潯東を離れてから数年間は、特にそうだった。姜恒はすべてを失って、一緒にいたのは耿曙だけだった。あの頃、耿曙はたまに彼に口づけして、親愛を表した。再会後も、耿曙はよく姜恒に口づけをしたが、姜恒は自分から耿曙にすることはめったになかった。「唇にするのが一番好き。」姜恒は笑った。

 

耿曙の母親は、幼い頃から息子の唇に口づけをして可愛がっていた。昭夫人は、姜恒に口づけなどしたことはない。耿曙の顔には自然に笑みが浮かび、口元が引き上がっていた。姜恒は口をきかず、次の行動を考え始めた。耿曙は庭にさす冬の暖かい陽光を見ながら思いを巡らせた。片手を姜恒の腰の、かつての火傷で残った傷跡に置き、やさしく何度も撫でた。それから彼を抱いて、自分の胸に寄りかからせた。

その時、姫霜が部屋から出て来て二人を見た。姜恒は急いで耿曙を押しのけると、姫霜に人畜無害な笑みを見せ眉を上げた。「さあ、この後どうしますか?」という意味だ。

姜恒は姫霜には耿曙から聞いた話を一切伝えなかった。何も起こらなかったことにしたのだ。

「今朝、二番目の兄が私に会いに来ました。彼も長兄を救い出したいと思っていました。」と姫霜は低い声で言った。「あなたの言うとおりです。兄は朝堂に戻らなければなりません。私たちに少し時間を与えてもらえれば、私は兄が父王を説得できると信じています。」どうやら姫霜は計画を続けることにしたようだ。

「しかし、私たちはどの国の関与も認めません。」姫霜は怒りを押し隠しながら言った。「代人のことは、代人が自分で解決するしかありません。長兄から事の経緯は聞きました。彼はあなたを信じられると思っています。」耿曙は姜恒の腰に手を置いて、ずっと黙っていた。

姜恒は考えながら尋ねた。「ということは、当初の計画通り進めるのですか。」

姫霜は深く息を吸った。兄弟が座っている場所の内、耿曙を避けて、姜恒の傍に座る。

 

「父王は毎年冬至のあの日、鐘山の宗廟に行って、勝叔父上の供養をします。叔父上は王室の嫡出ではないので、宗廟には入れず、鐘山の後ろに葬られています。」

「彼のお墓は見ました。梅園の中ですね。」

李謐は部屋の中から言った。「その時父王に随行するのは二千人だけ。鐘山山頂で分散させれば、絶好の機会になる。」

姜恒は耿曙を見て、体を揺さぶり、「何か言って。」と促した。耿曙は黙ったままだ。

姜恒は言った。「行軍と戦うことに関しては兄に頼るしかありません。二千人を突破して代王を取り押さえるのは、私の得意分野ではないので……。」

耿曙は傍若無人な態度で姜恒に言った。「俺は彼らを助けたくない。どいつもみんな嫌な奴ばかりだ。」

姜恒は笑い出した。耿曙が何を求めているか分かったからだ。謝罪してほしいのだ。

そうでなければ何も言わないつもりだ。姫霜を嫌っているのではない。本当に嫌いな人の前では耿曙は相手を見ようともしないからだ。姫霜にもそれが分かったようだ。

「申し訳ありませんでした。殿下、すみませんでした。ひどいことを言ってしまいました。」耿曙は姜恒を隔てて姫霜をちらりと見た。姫霜は沈んだ表情で説明した。「勝叔父上と父王は、私にとって二人とも父親同然なのです。」姫霜はその日一日心の中で繰り返していた言葉をついにはきだすことができた。

「兄は全てわかっていますよ。」姜恒は言った。「霜殿下、そんなに悲しまないで。聶海はあなた以上によくわかっています。」言いながら、姜恒は突然恐ろしい事実に気づいた。もしあの時本当に汁琮が死んでいたら、彼と耿曙の心の中に永遠に消えないわだかまりを残していただろう。ありがたいことに、汁琮はどこかから解毒薬を得た。天が助けてくれたとしか思えない。

 

耿曙は謝罪を得たことで満足して分析を始めた。「普通の将校であれば、千人くれれば十分だ。しかし相手は李宏だ。それと鐘山山頂は地形の高さで、位置的に有利だ。それを考えると少なくとも四千は必要だな。」

房内の李謐、姜恒、姫霜の3人は沈黙し、同時に考えた。鐘山山頂で李宏を待ち伏せして捕える。その戦いは、10日後に国の未来を決める転機になるだろう。

「四千人というのは難しくはない。ただ羅望と李靳がこちらに着いたとしての話だ。」

「いや、難しいはずだ。計画の中で一番難しい。その四千人は代国人ではないのだから。」

姜恒にはすぐにその意味がわかった。「うん、代国軍隊にはあなたの父王を相手にする勇気のある人はいないでしょうからね。」李宏はもう三十年も軍神としてあがめられている。軍にはその神話はいきわたっているはずだ。誰が敢えて彼を敵に回し戦いを挑めるというのだ?

「だから俺は雍国か、或いは嵩県から軍隊を呼び寄せたいのだ。もし外国の干渉を許さないと言うなら、もうこの話はしなくていい。」

姫霜と李謐は黙ったまま視線を交わした。姜恒は驛館でのやり取りと、その時の周游の表情を思い出した。あの男は意外にまじめだったんだ。耿曙に問題の有りかを指摘したのだから。

「一つ方法を思いついた。」姜恒は言った。「ただ折衷案かもしれない。」

「折衷案なんてない。」

「話を最後まで聞いてももらえないの?」そう言うと姜恒は耿曙の耳をひっぱった。

そろそろこういう態度の耿曙にはうんざりしてきた。いつもはあんなにやさしくなごやかに話しているくせに姫霜の前では偉そうに人を見下したような態度をとるなんて。

「よしよし、わかったよ。……さあ、言ってくれ。」

李谧:「……。」

姬霜:「……。」

姜恒は非難の眼差しを向けた。そして、しばらくしてから、言った。「嵩県駐留軍を集めようと思います。ただし、雍国の名義ではなく、挙げるのは天子王旗です。実は、私たちは5年前、晋天子に仕えた役人だったのです。」

李谧:「!!!」

姬霜「でも……。」

耿曙も思い出した。他の人はできなくても、彼と姜恒は、晋天子姫珣の名代として、諸侯に対して干渉できる、完全なる権限を持っていたではないか!

李謐は言った。「でも天子は既に崩御されたが。」

「天子が崩御されても、王旗は有効です。もちろん、言ってしまえば、全ては建前にすぎません。受け入れるかどうかはお二人次第です。」

李謐と姫霜は長い間沈黙していたが、最後に李謐はうなずいた。「それでは、殿下には嵩県までご足労いただくようお願いします。」

「行かなくてもいいように、俺が手配する。そちらはそちらの事をうまくやってくれ。」耿曙が冷たく言った。李謐は姫霜に向かい、不安な気持ちを吐露した。「ということは、羅叔父上と李靳か。この二人を何とか味方につけないとならないが、それがなかなか……。」

姫霜はやさしく言った。「大兄様、まだ何もしていないうちに、どうして失敗すると決めつけるのです。」李謐は苦笑いした。「その通りだな。取り越し苦労はよくなかった。」

姜恒は言った。「太子殿下のために羅望と会う約束を取り付けられますよ。」

「明日の夜だな。」李謐は言った。「細かいことは王妹とよく話し合ってみないと。」

それから四人は地図を広げて、計画の再確認をした。

冬至当日、李謐は西川に残り、王宮に戻る。羅望の保護のもと、大臣たちを招集する。耿曙と姜恒は嵩県の王軍を率いて、李宏が亡き弟公子勝の供養のために城を出たところをとらえる。退位証書を書かせて王宮に送り、李謐に会わせる。李謐は代国全域に伝える。父親を後宮内に人質としてかくまい、在外の軍隊を撤収させる。それで政変は完了だ。

一番の難題は羅望と李靳をどう説き伏せるかだ。このことで李謐はすでに頭が痛い。

「お二方はお帰りにならないで。公主府にお泊りください。行ったり来たりしていては正体が暴かれやすいでしょう。」姫霜が言った。姜恒もそう思った。城市は厳戒態勢にある。それに耿曙がいれば、李謐の安全も守れる。姜恒は姫霜に言った。「私たちは一部屋あれば大丈夫です。私は薬を調合します。どうしても説得できない時は、羅望を閉じ込めておかないと。」

 

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聶七はスキンシップたっぷりに息子を育てたけど、置き去りにして自殺した。姜昭は冷たく突き放して育てたけど、死に際を見せないように消え去った。残された方はどっちも納得いかないだろうな。残された子供たちが家族の要素全てをお互いに求めるようになる心理的背景がしっかり用意されているって感じ。