非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 63

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第63章 驛館での会合:

 

姜恒は界圭が命令を受けてきたのはわかっていた。それも雍国の最高機密扱いとして太子瀧と丞相が派遣した使臣だ。決して自分を話に参加させはしないだろうが、耿曙が行くなら同じことだ。耿曙は全部教えてくれるだろうから。

耿曙は長い間考えた末、界圭に一言告げた。「もし彼に何かあれば、俺がどう報復するかわかっているよな。」

「なぜです?下官は命令に従っているにすぎないのに。」

耿曙は小声で「すぐ戻るから。」と言った。姜恒は耿曙に心配しないでと示した。

李謐は不思議そうな顔をして、服を正し、耿曙と肩を並べて去って行った。

界圭は姜恒を驛館の側庁に連れて行くと、外に出て手伝いの者に生姜湯を持って来させた。そして、まずにおいを嗅ぎ、小さな杯についで自分で飲んでみてから、やっと姜恒に渡した。それから熱い手拭きを持って来て姜恒に手を拭かせ、小さな手炉に火を入れて姜恒の膝に置いた。自分はそばの柔らかい椅子に座って、姜恒をじっくりと調べるように見ていた。

「大きくなりましたな。」

「そうでもありません。人の世話をするのがお上手ですね。」

「慣れていますから。」界圭は曖昧に姜恒に眉を上げた。

「普段はあちらの殿下の世話をしているのですか。」

「もっときめ細やかにね。あなたに対してはいくつか省略しました。」

姜恒は言った。「恩に着ます。まだ丁丘離宮での助太刀にお礼を言っていませんでしたね。あなたの武攻は本当に兄と同じくらいすごかった。怪我をしませんでしたか。」

「いいえ、兄上の武芸は私には少し及びません。あなたの師夫なら私と同等でしょうな。かつて私はお父上と並び称されておりましたから。」

姜恒は落ち着いてお茶を飲んでいたが、今の一言だけでよくわかった。雍国王室は既に自分の身の上を詳しく調べ上げていたのだ。でなければ、この刺客が知っているはずがない。

「顔に何かついていますか?さっきから私をじっと見つめていますね。」

界圭は真剣に言った。「変装しているんですね。誰の顔ですか?」

「わかりません。適当に描いただけです。あなたにも描いてあげましょうか?」姜恒は曖昧に笑った。界圭は少し首を傾げ、目を細めて姜恒を見つめた。彼の顔はとても怖いが、眼差しは温かい。かすかに笑みを浮かべている――故人と再開したような笑み。

界圭は「こんな玉樹臨風、英俊瀟洒な私が変装する必要がありますか。私を愛したがために、私の剣を甘んじて受けた人のどれだけ多いことか。小太史、あなたもいかがですか。」と答えた。姜恒は「私は別にかまいませんけど、まず兄を説得してからにしてください。」と冗談で返した。界圭は皮肉な笑いを浮かべた。

 

「兄はあなたの弱点をつかんでいるようですね。彼はどうあなたに報復するつもりなんでしょう?」姜恒は好奇心を持って尋ねた。界圭は「私があなたを殺せば、彼は太子瀧を殺すつもりです。彼は私を殺せませんが、太子瀧を殺せば同じことです。あなたは彼の命で、太子瀧は私の命です。命を命で償う。公平ですね。」と言った。

姜恒:「……」

界圭は残念そうに言った。「実に冷酷無常。自らの義弟ですら手に掛けられるとは。そうではありませんか?でもこのことは瀧殿下には内緒です。聞けば悲しむでしょうから。」

「私の師夫を知っているんですね。」姜恒は目を細めた。先ほどの話の細部に気づいた。「しっ、」界圭は神秘的にまばたきをした。「彼を怒らせたくない。」

姜恒:「……」

羅宣は五大刺客の一人だ。界圭が知っていてもおかしくはない。だが、彼が自分の師夫だと姜恒は誰にも言ったことはない。界圭は太子謐を救った時使った迷香から推測したのだろうか?

姜恒は生姜湯を飲み終えて、杯をそばに置き、もう継ぐ必要はないと示した。海東青が飛び込んできて、姜恒の手元で何度か飛び跳ね、横から彼を見た。

界圭は思わずため息をついた。「一夜にして、人と鷹が、一緒にかつての主人を裏切った。広い世の中ではこんな珍しいことも起こるのですね。」

「私の父は雍国国士ですが、私たち兄弟は、汁家の家奴ではありません。汁家が私たちの主人ではない以上、どうして『裏切り』と言えるのでしょうか。」

界圭は一笑に付す。

 

ふと界圭は、「安陽に行って暗殺をするのは、本当なら私のはずだった。もしかしたら、今頃私があなたのお父上だったかもしれない。」と言った。

姜恒はこの話を聞いて、重要な情報を得た気がしたが、のんきに返した。

「それは違うでしょう。もっとありそうなのは、あなたが今死んでいることですね。」界圭は自分の坊主頭を触って、怪しい笑顔を絞り出した。「私はお父上のように頭が固くはない。畢頡のために殉死するつもりはありません。」

姜恒は冷笑した。なんだか急にこの刺客が少し好きになってきた気がした。

「それであなたは雍国王室に忠誠を尽くしていると。汁琮はきっと父を買収したように、あなたも買収したのでしょうね。」

「私は汁琅に約束した。雍国の正統な存続を守ると。彼は生前、汁瀧という甥をかわいがっていましたし。」この時外から足音が聞こえ、耿曙が戻って来た。

 

「周游がお前に会いたがっている。」と耿曙は姜恒に言った。それから彼の手元の生姜湯を見た。姜恒はうなずくと、従順に耿曙について行った。耿曙は手を繋ごうとしたが、姜恒は手を振って、ここにいるのはすべて雍国人であることを思い出させた。

姜恒は言った。「界圭、ちょっと手伝ってくれませんか。」

界圭は姜恒を見た。耿曙は「何をするんだ?俺がやってやる。」と尋ねた。

姜恒は手を振った。耿曙には離れさせたくない。

「宿に行って、箱を取ってきてくれますか。私たちの利害は今のところ衝突していません。あなたの太子瀧は李謐の命を守りたいと思っていて私もそう思っていますから。」

 

界圭はあっさりうなずいて、場所を問わずに、そのまま行ってしまった。この動きから見て、界圭はすでに城市内で待ち伏せて、2人を監視していたのだ。

周游はふてぶてしい若者だが作法はよく心得ている。李謐に一国君に対する拝礼をし、慇懃な態度で話していた。耿曙が部屋に入り、上座についた。この驛館では、明らかに彼の地位が一番高い。彼が入ってくるのを見ると、周游はすぐに立ち上がった。

「ここに座れ。」耿曙は姜恒に隣の席を指した。

姜恒には彼らが何を話していたのか分からないが、李謐は周游の提案を受け入れていないようで、双方の雰囲気は少し硬直していた。二人一緒に姜恒を見たその表情はかなり複雑だった。耿曙は姜恒のそばに座って、烈光剣を抜き、ついていた血を拭いた。

姜恒は一晩中寝ていなかったので、少し眠かった。

 

周游は「このカレの身分は…」と言った。「姜大人と呼べ。」耿曙は冷たく遮った。

周游は耿曙の手の中の剣を見た。刃が太陽の光を反射していた。

姜恒はあくびをした。「何て呼んでもいいです。話し合いの結論は?」

周游は「姜大人、本官には一言、言わざるを得ないことが…」と言った。

李謐は「言ったとおりです。雍国の要求は、受け入れられないことをお許しください。」と中断した。周游の表情はあまりよくない。彼はまだ若すぎる。

 

周游は言った。「太子謐の提案は、雍国としては受け入れられません。姜大人は雍国人でも、代国人でもありません。淼殿下(耿曙)は、太子謐を皇宮に復帰させる方法については、すべてあなたの言う通りにせよとのことです。どうぞ仲介役をお願いします。」

耿曙は姜恒を見て、『言ってくれ。』と合図した。

李謐は礼儀正しいが、意思ははっきりしていた。姜恒はしばらく黙って、周游の説明を聞き、大体のことがわかった。

 

耿曙は少し前に風羽をつかわし、北方へ手紙を送っていた。するとすぐに雍国の軍隊は万里の長城を迂回し、長城の西にある別の大きな関、とても超えにくい関でもある、潼関を通って黄河を渡り、漢中に入った。この軍隊は、李謐の政変を支持する重要な力となり得る。周游が命令を下せば、すぐにでも耿曙の指揮下で奇兵として働き、西川城を攻略し、代王李宏を軟禁して、李謐を支えることができるのだ。

 

「それは結構。」姜恒は笑った。「私は何もしなくてよくなった。」

姜恒はちょっと責めるように耿曙を見た。耿曙はとても気まずい。彼も雍国の反応がこんなに大きいとは思わなかった。つまり、汁琮が以前考えていた、『先ず梁を取り、後で鄭を攻める』作戦は変更したのだ。代国を乗っ取れる機会があるとわかれば、『先ず代を攻める』方に心が動く。これは非常に危険だ。

李謐は馬鹿ではない。狼を引き込む危険はわかっている。この提案を、彼は当然受け入れることはできない。

「私はどの国の軍隊も私の国に入れません。」と李謐は言った。「代人のことは、代人が自分で解決すべきだ。もしいつか、私が国君の位を引き継いだら、あなたたち雍国に兵を使わないとは保証できませんよ。」耿曙は終始黙って、手にした剣を拭いていた。

 

周游は言った。「わが国には恩を着せる気はありません。謐殿下はご安心ください。ただ私たちの協力なしに、独りで声を上げるのは無理です。どうやって朝堂に戻るつもりですか。率直に言って、今城内では大挙して捜査が行われています。この驛館を出れば、李宏はあなたを捕まえて殺すでしょう。あなたの三弟は兵を率いているし、二弟の李霄は鄭国君の太子霊と私交が浅くない。雍人を除いて、あなたには信じられる人はいません。」

「彼には私がいます。あなたたち雍人はどうしていつも自信過剰で、人を甘く見るのでしょうか。」と姜恒は言った。

周游:「……」

李謐は姜恒に、「小兄弟、私は君を信じています。離宮にいた時の君の言葉にうそはないと思っています。君にはもっと良い解決策があるのですか。」と尋ねた。

 

周游は助けを求めて耿曙を見たが、耿曙は何の反応もしなかった。周游は葛藤した。彼はこの少年がどういう人物なのか知らなかったが、王子のそばについている以上、雍国の側に立っているに違いない。しかし、姜恒は彼を手伝ってくれないばかりか、逆に引っ掻き回している。いったい何が起こっているのだろうか。

「汁琮は期限を設けているはずです。」と姜恒は言った。「目的ははっきりしている。太子を救出して逃がす。そしてあなた方の殿下に兵を率いさせ、太子謐に協力して、代国を攻める。」周游は認めざるを得なかった。汁琮には確かにそう言いつけられている。落雁が彼をどうするつもりかはわからない。太子瀧と管魏から送られてきた密信の指示は、界圭を耿曙に従わせて、離宮に行って太子謐を奪い、手に入れたら、彼の名の元に西川を攻めることだ。

 

「軍を出動させる締め切りはいつですか?」姜恒が尋ねた。周游はためらった。

「彼に言うんだ。」耿曙は声を曇らせ、威厳に満ちていた。

周游は「冬至の日です。」と答えるしかなかった。

「具体的にどこに待ち伏せしていますか?」

「それは本当に知りません。」

姜恒は「帰って将軍に言って。兵を率くのが誰であろうと、代国の内政に干渉しているのを発見したら、私は太子謐を殺して、あなたたちの頭の上に投げつけてやる。そうしたら、雍人は新しい恨みと古い恨みの両方を清算することになる。あなたたちは李宏の怒りに直面することになるでしょうね。」と話した。

周游:「……」

李謐は怒るどころか、大笑いした。「面白い!いやあ、面白い!」

「それと、彼らが来たらやらなければいけないことがある。第三王子の国外にいる軍隊を阻止するとか。」「彼の言うとおりにするんだ。」耿曙は真剣に言った。

李謐は黙っていた。姜恒には何か計画があると分かっていた。

 

周游は「それは私には決められない。主帥がどうするか、落雁の太子瀧がどう決定するかによります。」と話した。「それなら彼が聡明な人であることを前提にして、私は太子謐を連れて行きます。後のことはご心配なく。」

李謐:「どこに連れて行くつもりだ?」

姜恒は李謐に「あなたは行くつもりですか?それによります。」と言った。

李謐は考えた末、最後にうなずいた。姜恒は「ちょっと場所を借ります。」と言った。界圭が帰ってきた。姜恒は驛館内の部屋を借りて、界圭に手紙を渡した。「お疲れ様、でもまたご足労願います。この手紙を鄭国商会に持って行ってください。」と言った。

界圭はまた立ち去るしかなかった。姜恒はこの時間をつかって、急いで李謐のために変装術を施し始めた。耿曙はそばで冷ややかな顔をして見ていた。

「周游は死ぬほどお前に腹を立てているぞ。」と耿曙は言った。姜恒は笑った。「普段の彼がどんなだか私にわかるわけがない。もしかしたら彼は落雁でも偉そうにしていて、恐れているのはあなただけだったりして。」

耿曙は「うん」と言った。「彼は汁瀧の腹心だ。……限られた数人を除いて、普段は確かに人を見下している。彼は緊張しているんだ。これが初めての正式な外交だから、功を立てようとしているんだろう。」と言った。

李謐が側にいるため、耿曙は自分の正体を明らかにしたくない。さもないと、苦労して築いた信頼は、あっという間に崩れてしまう。

 

李謐は話し合いの様子から推測して、「君は雍人ではないだろう。姜恒、誰が君を遣わしたんだ?」と尋ねた。姜恒は答えた。「誰にも遣わされていません。私は晋天子の太史をしていましたが、天子は5年前に崩御されました。姫珣が私を遣わしたと思っていただいても結構です。」

「それで界圭が『小太史』と呼んでいるのか。」李謐は鏡を通して耿曙を見た。

「彼は、」姜恒は耿曙を指して、李謐に向かって尋ねた。「雍人のように見えますか。」

「正直に言えば、見えないな。」と李謐は答えた。「でも彼は雍人の側に立っている。このお兄さんは、雍国の役人なのか?官職は低くないだろう。」耿曙は反論しようとしたが、姜恒は李謐に向かって「太子謐、ご心配なく。私がいる限り、この男は私の言うことを聞きます。」と言った。「君の名前は何だ」李謐は鏡の中から耿曙を見た。「雍国使臣が君にこんなに遠慮しているし、界圭も君たちの言うことを聞いている……いや、言わないで、……あり得ない。」

 

李謐の頭の中は今、疑問に満ちている。色々と身分を推測しても、どれも合わない。

「彼は聶海といいます。」姜恒は耿曙が明らかに話したくなさそうだったので、彼の代わりに答えた。鏡に映った李謐はすでに別人になっていた。「姜恒、君は一体私に何をさせたいんだ?」

 

姜恒は一度見直して、考えながら言った。「私たちはあなたの選択を完全に尊重しています。太子殿下、私は雍人ではありません。誰かのために動いてもいません。さて、どうしましょう。ご自分で歩いて見てください。」

界圭が戻ってきた。「外に馬車を待たせていますよ。」