非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 58

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第58章 将軍府:

 

その時、屋台の主人が手を拭きながらやって来た。文を一通耿曙の前に置くと、主人は少し身をかがめて、行ってしまった。耿曙は手紙を開けて読んだ。

「姫霜は軟禁されていても西川の配置は把握しているんだな。最初に彼女に会いに行くと決めたお前は賢い。」「それのどこが賢いの。何度もほめてくれるほどのこと?」

手紙には前置きも落款もなく、ただ二人にある商会に行くようにとだけ書いてあった。耿曙は真剣な顔で読み終えると、うなずき、「行こう。」と言った。

「人を殺さなくていい時には、烈光剣はできるだけ出さないようにしないとね。西川にはその剣を知っている人がいるんじゃないかって心配なんだ。来歴を考えると。」

「俺はそんなにばかではない。行くぞ。」麺を食べ終わった耿曙が言った。

 

翌日、姜恒は手紙を持って出かけ、姫霜が示していた商会を見つけた。商人の頭領は趙という鄭国人で、姜恒は趙起を思い出した。

商人が言った。「公子はどんな身分にしたいですか?私たちは上の命令を受けて、代国の羅望将軍に会わせるために公子を必要な身分に変装させます。ここの人間以外には知れません。それと、ちょうど私たちは今夜、羅将軍に招待されているのです。その時、お二人には首席に座っていただけます。上の者は、公子がしたいことは何でもさせて、全力でお手伝いするように、少しでも怠ってはいけないと言いつけました。」他人がいる限り、耿曙は無口になる。まるで忠誠な衛士のように、姜恒のそばに座って、彼に手配を任せた。

 

姜恒は考えながら、耿曙を見た。「私の父は貴国の太子霊殿下府内の購買係だということにしましょうか。職務のため代国に来ています。羅望将軍とはどんな人ですか。」

「そうですね……」商人はすぐに判断がつかず、考えながら言った。「正直なかたです。」

姜恒「……」

「正直者が上将軍になるなんてことはあり得ない。」姜恒が言った。

「そうですね」商人はうなずいて、また言った。「公子勝が彼を抜擢したのは、武王の威信がますます盛んになって、部下が戦争に勝っても、彼自身で行くことができなくなったころでした。」

「この羅将軍、奥さんはいますか」姜恒は高位にいる人のことを考えた。代国王室や西川の名家と結婚しているかもしれない。そうしたら、奥さんから攻められるかもしれない。「正妻や子供はいません。最近済州は四名の美姫を礼物として贈りました。」

 

姜恒は妾を贈るのが太子霊のやり方だと良く知っている。この商隊は情報と引き換えに西川で活動できているようだ。代国との連盟を強めるためだろう。姜恒は話を切り上げ、それ以上質問もしなかった。彼が鄭人になりすましても平気だろうが、耿曙はちょっと難しそうだ。ばれるかもしれない。

「その時は何も言わない。」耿曙は言った。「お前の後ろについている。」

そうするしかない。姜恒は耿曙を行かせないつもりだったが、きっと承知しないだろう。

 

その夜、心配していたことが現実になった。羅望には彼が想像していたような聡明さがない。

商人の評価はかなり正確で、彼は確かに正直で人を怒らせる人だ。彼が住んでいる将軍府も、非常に粗末で、執事が一名、召使いが二名いるだけだ。羅望は年は四十数歳、5万人の重兵を握っており、今は代王以外では、西川武将の中で最も重要な兵権を司る人である。この邸宅はそんな身分に全く合っていない。

この日羅望は早くから将軍府で客を待っていた。灰にまみれた古い提灯がたくさん掲げられ、庭園の中に宴席が設けられていた。席上には町で買ってきた総菜が並んでいるだけだ。

羅望は自ら門の外に立って迎え、「さあ、入って入って。ああ、毎回こんなに色々持って来て。他人行儀じゃないですか。よ!この兄弟二人は堂々としていて、人目をひくな。ぜひともお近づきにならないと。」と笑った。商人は笑顔で言った。「ほんのちょっとしかお持ちしておりませんよ。いつも羅将軍にはお世話になっております。ご紹介いたします。こちらは我が国の購買担当官姜恒、姜公子です。その横は母方のご兄弟の聶海、聶公子です。

羅望は姜恒を見て美しい玉のようだと思った。後ろに控えていた冷たく不愛想な耿曙はすぐさま姜恒の手を引いた。羅望は笑いながら言った。「さあさ、中で話しましょう。」

 

姜恒は羅望を見た。質素な常服を着ているな。上着の襟にはつぎがある。自分たち一行は華やかな衣装を着ているが、富即貴に非らずだ。華美な服装の客と一緒にいることで、上将軍の貧相さが、よけい目立つ。だが、理にかなったことだ。武王自身が戦神なので、部下にどんなに強い勇将がいても、あまり厚遇しないのだろう。国君が先頭に立って導き、将校は彼の命令を忠実に実行すればよい。不世出の奇功を立てる機会はないのだから。

 

羅望は姜恒の手を引いて放さず、笑いながら上から下まで眺めまわし、「才気ある人、才気ある人!」と言った。姜恒は羅望がこんなに情に熱い人だとは思わなかった。やはりいつも寂しい思いをしているのだろう。長年風雪に耐えてきたことを考えれば、若い頃はかなり英俊だったに違いない。両鬢が白くなった今でも、意気盛んだった兵隊時代の面影が残っている。姜恒は彼を利用できるか試してみようと思っていたが、耿曙の言葉で言えばそれは「計算」だった。こんなに歓迎してくれる姿を見ると、少し後ろめたさを感じた。

「生まれはどこなんだい?」羅望は姜恒に尋ねた。「鄭人です。」姜恒は答えた。

耿曙は羅望が姜恒の手を離さない段階で既に顔色が宜しくない。商人は羅望には妻も子もいないと言っていた。中年男が容貌の美しい姜恒の手をひいて笑みが止まらないでいるのを見るに、彼の心には怒りの炎が燃え上がった。姜恒は黙って手を引いてから、「どうぞどうぞ。」と言った。一同は順番に席についた。姜恒は羅望の左側に座り、耿曙は姜恒の次の席に座った。羅望はまず贈答表を受け取り、仔細に読んでから、「歌姫はみんなお返ししよう。うちでは必要ない。」と言った。

商人は「それは難しいかと。こんな遠くまで来てしまったので。」と言った。「それもそうだな。」羅望は相手の好意を断ることができなかった。「それでは彼女たちには残ってもらうが、後で会ってみて、部下で欲しいという者に引き渡すのはどうだろう。」「将軍のお好きなように。」商人は笑った。

 

姜恒はあの時もそうすればよかったのだと教えられた。心の中では思っていた。『あなたたち鄭人はどうしてこんなに妾を送るのが好きなのか。人を家畜のように送る行為は汁琮の行いと変わりない。これで将軍が受け取らないと知れば、太子霊は次に男妾を送ってくるだろう。』

 

羅望は贈答表を見終わってしまうと、姜恒に話しかけた。「西川に来て何日か経っているようだね。済州と比べてどうだい?」姜恒は笑顔で答えた。「済州よりだいぶ繁栄していますね。民風もとても開放的です。」そして商隊の頭領に向かって、「国に戻ったら私の替わりに伝えてください。ここに来てしまったらもう国には帰れないと。」商隊頭領は笑って答えた。「わかりました。姜公子」姜恒が話し出すと、みんな杯を止めて箸を置く。羅望はその様子を見て姜恒が鄭国で高位にいることを知った。

 

「まだどこかに遊びに行きたいのか?」耿曙は姜恒に聞いた。「え?」姜恒は耿曙が話し出し、しかもここに来て初めて口をきいたのを見て、どういう意図があったのかはわからなかったが、笑って言った。「時間ができたら、鐘山に行ってみない?」

羅望は言った。「鐘山の雪景色は素晴らしいよ。もしよければ君たちしばらくこの家に滞在してはどうかね。」

姜恒「……」

歓迎も行き過ぎでは?姜恒は羅望の熱心な表情を見て、社交辞令ではないとわかった。「兄が城市に宿をとったので……。」「気にしない、気にしない。」羅望は姜恒に言った。「移って来ればいい。な、な、予定がなければ夜に私の話し相手になってくれ。」姜恒はちょっと危ないのではと警戒し始めた。商隊の首領は気まずそうな表情をしたが、姜恒に替わって決定を下すわけにもいかない。耿曙の顔色は見ていられないほどひどくなった。だが、口を開いた瞬間、姜恒に足を蹴られた。「怒っちゃだめだ。」という意味だ。

「ちょっと事情がありまして。」姜恒は遠回しに羅望の誘いを断った。「色々なことが、落ち着いたら、是非お邪魔させていただきます。」

羅望はハハハと笑って、「わかった、わかった。じゃあ待つとしよう。」

姜恒は本来、羅望を陥れようと謀をたくさん考えてきたのだが、口に出す前にすべてこの人に流されてしまったことに気づき、何を言ったらいいのか分からなかった。

最後に耿曙が釘を刺した。「近頃の西川は以前と違う。何日か遊んだら帰ったほうがいい。恒児。」この話は痛いところを突いたらしく、羅望はすぐさま言った。「あなたがた外国人はみんなそう言いますが、でもね、私から見れば、商いは立国の基本です。この国策はかつて公子勝が制定していたものです。武人の私が命をかけて保証します。西川城で何があろうと、皆さんには決して害が及ばないと。」

姜恒は話を聞いてうなずいた。「太子謐はまだ軟禁を解かれていないのですか。」

羅望は手を振った。今はその話はしないようにという意味だ。商隊首領は、ハハハと笑って、話を流し、皆は酒を飲み始めた。宴席の話題は済州や西川の風土や人情といった内容になった。

「上将軍は春が来たら出征されるのですか。」姜恒は空気を読まずに尋ねた。羅望は「それは陛下が私を連れて行かれるかどうかにかかっている」と答えた。羅望は杯を持ってしばらく考え込んでいたが、突然何を思い出したのか、みんなに説明した。「私が西川にいなくても、李靳が各商会のお世話をするので、ご心配なく。さあ、姜恒、聶海、これを食べて…」

 

羅望は自ら二人に料理をとりわけ、姜恒は笑って食べた。酒が三巡し、またしばらく雑談が続いた。姜恒は酒の席の話を聞いても、全く面白くなかった。この上将軍の生活はまるで楽しみがなかった。好色ではなく、権力に執着してもいない。だが生活が質素なら、なぜ他国の重礼を受け取ったのか、その金を何に使ったのか。

 

「将軍は兵士になる前には何をしていたのですか。」と姜恒は好奇心を持って尋ねた。羅望は「31歳の時に代国に来た。その前は郢国の小さな山村で薬師をしていた。」と話した。姜恒は「そうですか。」とうなずいた。

 

羅望はお酒に強いので、姜恒は飲みすぎないようにした。言ってはいけないことを言って正体を明かしかねない。耿曙も後半には酒を飲み、食事はかろうじて客をもてなすことができた。羅望は2人に宿泊先を尋ね、また親し気に手を取って姜恒を送り出し、彼の肩をたたいた。「兄は無口なんです。将軍、どうぞお気になさらないで下さい。」姜恒は羅望に目配せして笑った。「かまわん、かまわんよ。お二方に会えてとてもよかった。」羅望は言った。

 

羅望は酔った顔で楽しそうに笑っていた。その時、ふと外の灯を受けた彼の顔が誰かに似ていると気づいた。どこか見覚えがある。

 

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やっと気づいたか、遅いぞ。羅姓でわかっただろうに。