非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 68

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第68章 父子の怨み:

 

姜恒は一笑した。「わかっていました。」

「そうか」羅宣は眉を上げた。「奴を長い間探していた。何だ、お前も気づいたか?奴と鐘山に行ったあの日に本人から聞いたのか?」

姜恒は笑った。「ああ、私の様子を伺うためにその時は誰に成り済ましていたんですか?」

古来より『青は藍より出でて藍より青し』という。羅宣は師父とは言え、心眼が弟子より優れているわけではない。不注意な一言で行動が分かってしまったからには言うしかない。

「お前の様子を伺っていた?見ていたのは奴のことだ。奴は俺の親父だ。代国に来たのはまさに奴を殺すためだ。お前には関係ない。弟子よ、あまり感情的になるな、わかったか。」

 

「でもどうして殺さなければならないのです?」

「奴が死ぬべきだからだ。奴が妻子を見捨てた年月に、生死を気にしたことがあるか?」

姜恒は羅宣に先ほどの羅望とのやりとりについて話さなかった。「もしずっと苦しんでいたら?向かい合ってはっきりと問いただしてから殺すかどうか決めても遅くないのでは?」

「フ、フ、フ、」羅宣は笑い出した。「ほら始まった。弱虫の軟弱者め。いつだって寛大さを惜しまない。お前の慈悲深さは、この世で最も強烈な毒薬よりずっと強力だな。談笑しながら慈悲を説く。何千、何万もの人がその言葉のせいで命を落とす。麦が刈られるかのように……。

……偽善だな。」羅宣は近づいて真剣な調子で囁いた「だから王道なんてものは胸糞悪くさせるんだ。」

姜恒は羅宣を見つめて態度を変えた。「間違っていました。あなたの気分を悪くするべきじゃありませんでした、師父。だけど、自ら手を下せば恨みは晴れるのですか。彼に説明する機会も与えず、後ろから一突きして死んでしまったら、もう一度殺すわけにもいきません。私にやらせてもらえませんか。」

羅宣は言った。「もちろん我が父である将軍様を、そんなに簡単に死なせるはずがない。毒殺では報復にならない。まず破滅させ、西川の民に罵倒させる。それから町中に連れて行き一生かけて得た功名も、利禄も水の泡にして、斬首人を呼び寄せ、耳元で『これはお前が妻を捨てた報いだ……』と言って、やつが目を丸くしているうちに、ゆっくりと頭を切り落とす。」

 

姜恒:「いいえ、師父、そんなことしても恨みは晴らせません。」と言って、彼は少し羅宣に近づき、ささやいた。「彼は西川で多くの孤児を援助しているそうです。私たちはまず謀反の罪を着せて孤児たちを捕えて、彼の目の前で一人ずつ殺すのを見せつけるのです。彼に『もともとこの子供たちはあなたと何の関係もなかったのに、あなたの道連れになった。だから……』と言った」。

「それじゃだめだ。」羅望は言った。「他人に罪はない。」

姜恒は驚いた。「だからこそ彼を苦しめられる!大切にしているすべてを破壊しないと!彼が孤児を援助したのは、罪を償うためではないですか。それがもっと大きな罪につながったら、面白いでしょう。体を苦しめて何が楽しいのです。心を苦しめないと!」

羅宣は姜恒が言いたいのは逆のことだと気づいた。「まだ言いくるめようとするつもりか。」

姜恒は耿曙の次に羅宣のことをよくわかっている。彼は羅宣が手を下さないし、今日は羅望に機会を与えたのだと確信していた。「師父、あなたは自分だけではこの関を越えることができません。あなたには彼を殺すことはできない。ただ彼に後悔させたいだけでしょう。彼はまだ何も知らない。だからまず彼と話をすべきです!」

「お前には関係のないことだ!俺には親父はいない!世の中の誰もがお前のようだと思っているのか。死人を抱いて嘆き悲しむと?」

「本当にそう思っているなら、汁琮に解毒薬を与えたりしなかったはずです!」

次の瞬間、羅宣と姜恒はともに黙り込んだ。

「あなたにはわかっている。誰よりもわかっている。父殺しは不倶戴天の仇になる、だからあの日、界圭に解毒薬を渡して持ち帰らせ、汁琮を回復させたんです。さもなくば今もこれからも、兄が私を許すことはなかったはずです。口では許すと言ってくれても、心には傷が残り、永遠に癒えることはなかったでしょう。」

 

「くだらん!」羅宣は遠慮なく言い放った。「黙りやがれ!」

羅宣は立ち上がって出て行こうとした。姜恒は彼を引っ張って言った。「師父!落ち着いて下さい。あ!痛い!」

耿曙がすぐに戸を開けて入って来た。「ハンアル!」

羅宣は耿曙の攻夫を試した後に手袋をするのを忘れていた。姜恒が彼の手を引いた途端、毒気が心臓を攻撃し、唇が白くなった。羅宣は慌てず右手を姜恒の唇にあて、すぐに姜恒の顔色は元にもどった。耿曙は姜恒の前に割って入り、羅宣を見た。

「義父の命を助けてくれたことに感謝します。あなたに借りができた。以降機会があればこの情海、どんなことでもして報いる所存だ。だがもう二度と恒児には触れないでほしい。」

羅宣は深く息を吸った。怒りを収めているようだ。姜恒はすぐに言った。「兄さん、私を見て。何ともないでしょう。」

羅宣は冷たく言った。「いや、借りがあるのは俺の方だ。あの時君が死んだと思ってよく調べもせず、遺物を海閣に持ち帰って姜恒を騙した。俺は汁琮に恨みはない。殺すには忍びないと思って一命を取り留めさせた。やつがいつか郢国を攻めて郢人を殺しまくってくれたら、奴の手をかりて弟の仇が打てるってもんだ。もう行く。いつかまた会おう。」

「師父!」姜恒は追いかけたが、羅宣は影も形もない。どこかに消えてしまっていた。

姜恒は眉の間を指で揉んでため息をついた。羅宣との半年ぶりの再開がこんな形になるとは思わなかった。

耿曙が烈光剣を佩いて戻って来た。「彼の弟は郢国人の手で死んだのか?」

姜恒はうなずいた。羅宣の性格上、必ず仇を打つことはわかっている。

 

「公主は何だって?」姜恒は『兄嫁』とはもう言わなかった。

耿曙はしばらく黙ってから言った。「俺たち二人に代国に残らないかって。結婚の話はなしで。」

姜恒は笑った。「少し直情的だし、心にもないことを言ってしまう女の子だけど、根は善良な人だよね。結婚の話はあなたから断ったのにまだ何か言うことがあったのかな?」

耿曙はまたいらついてきた。「もう二度と口にするな。」

「わかったよぅ。」姜恒は彼の機嫌をとろうとして言った。「寝よう。兄さんは明日戦うのだから。」姜恒は気づいた。姫霜は、耿曙を死ぬほど怒らせた後でうまくなだめられる数少ない人だ。

 

―――

数日後、海東青が帰って来た。嵩県軍も到着した。彼らは商隊を装って西川に潜伏していた。姜恒が文を送ればすぐに城外に集結し、耿曙の号令を聞くことになっていた。

宋鄒は姜恒の意図を汲み、細心の注意を払って嵩県軍を手配した。派遣したのはすべて地元の駐留軍で、嵩県を占領していた雍軍は城防として残した。つまり、耿曙が率いるのは、名目上は晋国王軍のみなので、他国の内政干渉という弱点は一切ない。

 

冬至当日の朝。

「おかしいですよね。」姜恒はこの日、庁内で朝食を食べていた。耿曙と李謐は朝食を済ませ、それぞれ先に出て行った。「どうしても分からない。いったい誰が姉上にあの機密を伝えたのでしょう。」と言った。界圭は門の外にいた。

姫霜は姜恒が話題にしているのは耿曙の出生のことだと当然わかっており、淡々と言った。「あなたたちにとって、全世界が敵だというのはそんなにおかしいことかしら?」

姜恒は笑いながら姫霜を眺めた。姫霜は眉を上げた。

「淼殿下は高慢で、きっと代国に残ることを潔しとしないでしょう。姜恒、あなたは私のことを深宮に生まれ、深宮に育ち、外のことは何も知らないと思っていますか?」

姜恒は驚いた。「いいえ。どうしてですか。かつて、西川の李勝は、全天下で最も頭のいい人だという噂でした。その公子勝が、殿下にとって父でもあり、師でもあったのなら、殿下の本領に疑いの余地はないでしょう。」

姫霜はため息をついた。「本当に賢ければ、あの日安陽には行かなかったでしょうけど。」

姜恒は耿曙に言わなかったが、心の中では最初からはっきりわかっていた。姫霜は決して見た目ほど弱くはない。むしろ彼女こそが全ての戦略を立て、千里を勝ち取る人だ。嵩県にあの手紙を送ってからの、代国の情勢の変化は、すべて彼女の手のひらの上にある。

「では、逆に聞くけど、私はどんな人だと思う?」姫霜はまっすぐに尋ねた。

姜恒は「はっきり言えませんが、私はいつも殿下が、今の西川で最も賢い人だと感じています。」と笑った。姫霜も笑いだした。「そんなはずがないでしょう。上には上がいるものです。今はあなたが西川にいるし、あなたは私より賢いでしょう。」

「とんでもない。私は賢くはないです。殿下が笑うのを初めて見ました。あなたは兄と同じように、あまり笑うのが好きではないのでしょう。」

姫霜は笑顔を引っ込めて、「ええ、私も気づいていました。」と淡々と言った。

姜恒は「笑うのが好きではない人は、心の中にいつも心配事を秘めている。」と言った。

この言葉に、姫霜は答えなかった。しかし、姜恒は考えれば考えるほど複雑な気持ちだ。嵩県から西川まで、姫霜に会って、李謐を救出するまで、すべての手配、一歩一歩、すべて姫霜の予測通りに進んでいるように思える。この公主府は本当に深く、測りがたい。

「ことの成否にかかわらず、感謝します。あなたは代国とは全く関係がないのに、全力を尽くしてくれた初めての人です。」

姜恒は一笑した。「私がいなくても、殿下はやりとげていたでしょう。違いはありません。あなたは棋士ですね。殿下。」姫霜は黙っていたが、姜恒はここ数日ずっと考えていた。もし今回西川城に来たのが耿曙一人だったら、何の懸念もなく西川に残っていただろう。

「私はあなたのことが好きよ。李家では私は末娘で、弟や妹を持ったことがないのです。こう呼んでもいいかしら?

......弟弟(ディディ)。」

 

「私もあなたのことが好きです。もちろんです。私にもお礼を言わせて下さい。」

姜恒はこれまでその方面に考えたことがなかったが、突然目から鱗が落ちた。姫霜の言葉にこめた深い意味と、彼女の情報源が分かった。しかし、この憶測に彼は思わず背筋が冷たくなった、 ......耿曙の出生の秘密が漏れたのは、太子霊とは何の関係もない。噂の出どころは、雍国だったのだ!

 

どうしてか?当然のことながら彼らは耿曙がどこの国にも留まることも望んでいないし、誰かの手によって死んでほしくもない。それで、代国で唯一耿曙を殺さない姫霜に秘密を明かすことを選んだのだ。姫霜は確かに耿曙に情を持っていた。父殺しの仇の件を暴きはしても、彼が代国に残ることを望み、二人を守ろうと思っていた。彼女が情報源を意図的に隠していたのは、万が一耿曙が落雁城に戻っても、汁家の行いに心を痛めることがないようにだ。

 

姫霜は姜恒に向かって真剣に言った。「弟弟、世の中は険しいから気を付けなければ。」姜恒はうなずいて、姫霜に「行ってきます。いい知らせを待っていて下さい。」と言った。

界圭らは門の外にいた。今回姜恒は公主府の正門から出て行った。今日ことが起きれば、もう身を隠す必要はなくなる。

「私も時々おかしいと思うんです。」界圭は車に姜恒を乗せて、耿曙と約束した待ち合わせ場所に向かった。

「何がおかしいと思うの?」姜恒は貂の毛皮をまとい、ボロ車に乗っていたが、この一時、神州の大地の天子となったかのように巡行している。界圭は感慨深げに言った。「人と人はどうしてこんなに違うのか。棋士になる人もいれば、棋子になる人もいる。」

姜恒は先程界圭が門の外にいてすべて聞いていたことを知っていた。「道はすべて自分で選んだものです。棋子になるのは棋士になるよりつまらないと決めつけていませんか?」

「確かに。」界圭は笑った。

姜恒は「言わせてもらえば、あなたたちは棋士ではありません」と言った。

界圭は大まじめに聞いた。「私たち?って、誰たち?」

「あなたたち、棋盤に棋子を置いた人たち。」姜恒は笑った。

界圭は答えた。「棋を置いたのはお父上でしょう。勝てない時に棋子を置きに人をやったのは汁琅、汁琮の兄弟です。私はと言えば、誰かに棋子を置かせないようにする役目です。いつも注意深くないと。そう思いませんか?」

「だから天下人はこんなに父を嫌うんだね。規則を守らない人はこの世界では生きにくい。あなたは規則を守ったほうがいいですよ。」

界圭は「私は本当は規則を守りたくありません。もし私が今あなたを連れ去ったらどうなるでしょう。当然制御不能になるでしょう。この一件がどのように終わるか見てみたいんですけどね。」と話した。

 

「一番ありそうなのは何も起こらないってことだね。今はもう私がいようがいまいが関係なくなっているから。」そこまで言って姜恒は悪い笑みを浮かべた。「あなたがたの太子のところに私を連れて行ってくれない?間違ってなければそう命令されているのでは?彼はどこにいるんです?西川城ではないですよね、きっと北の方かな?」

界圭の表情が一変した。姜恒は続けた。「あなたは早々に姫霜と接触していましたよね。時期は、そう、私と汁淼が公主府を出た後くらい、違いますか?」

界圭は車を御して町を出た。昨夜は小雪が降り、山林の間には霧が立ち込め、楓川は凍りついていた。海東青は城を出て、空高く飛んだ。遠くから哨の音が聞こえてきた。

姜恒は一言で、遠慮なく雍国の布石を全てひっくり返した*。同時に彼の推測の裏もとれた。界圭は早々に西川に到着し、太子瀧からの秘密の手紙を持って、ひそかに姫霜に会っていた。そして姫霜は耿曙と姜恒の二人の生い立ちを知った。

 

落雁城は姫霜に耿曙を追放させ、二人を西川にいられなくさせようとしたが、姫霜はすぐに汁琮の意図を見破った。彼女にとって、耿曙の命は父の仇を殺すことより重要だった。彼女は逆に姜恒と耿曙兄弟が残ることを望み、耿曙を守ろうと決めた。ただこうした行動の、どこまでが感情からで、どこまでが利益のためなのか、姜恒には判断することができなかった。

 

界圭は頭をなでた。「私は何も知らないんです、小太史。ただ命令に従って行動しているだけなので。」

「まあいいや。それで私たちは今どこに向かっているの?」界圭の車は脇道に止まった。姜恒は体を前に倒して、そっと彼の耳元に寄り、ささやいた。

「私が注意しなかったとは言わないでね。師父が来るかも。昨夜、隣の部屋の壁に耳をつけて盗み聞きしていたでしょう?あなたも師父が突然狂暴になって、太子瀧を毒殺して、私のために早めの復讐をするのは見たくないでしょう。」

 

「太子瀧はあなたを殺しません。彼があなたを殺さない以上、復讐説もありません。」

「でも師父がそう思っているとは限らない。」

界圭はすべて知っている。羅宣がきたことを知らないはずがない。

最後の言葉はついに界圭の考えを変えることに成功し、彼は馬に鞭を振って向きを変え、鐘山に向かって行った。

 

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*将棋の知識がゼロなので、将棋の駒に見立てた表現の翻訳は全て間違っています。布石を打ってあったら、どういう動詞を使ってそれに対抗するのかもわからない。なので、念のため、原文は:雍国的布置掀了個底朝天