非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 60

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第60章 梅園の碑:

 

男は背後に数人の従者を連れて、寺の石碑の前に立ち、二人を見ていた。

姜恒はどきりとした。しまった!まさか……

「吾王。」羅望は表情を変えず、背の高い男に片膝をついた。

李宏(リホン)!やっぱり李宏だ!

 

さっきは階段の下にいて、頂上の様子が見えなかった。羅望と話したり笑ったりしていたことは、李宏に聞こえていただろうか。姜恒はすぐに外国の使臣がする型で拝礼した。李宏は静かに彼を見ると、意味ありげに笑った。羅望は彼をあまり恐れていないようだ。「王陛下がいらしているとは思いませんでした。」

李宏は言った。「今朝鐘山に雪が降ったと聞いてな。すぐに見に来た。そこの君、顔を上げなさい。」姜恒は頭を上げて李宏と対面し、ようやく彼をよく見ることができた。

 

李宏は髪を細く編みこんで後ろに寄せる胡人の型にしていた。国の君主には見えず、蛮族の首長のようだ。顔も噂通り、少し西域の血統で、鼻が高くて目が深い。

「君の名前は?」李宏が尋ねた。

羅望が答えた。「王陛下に申し上げます。末将の遠縁の甥でございます。」

「彼に聞いているんだ!君は口がきけるのだろう?」李宏は責めるように言った。

「私は羅恒と申します。王陛下に拝謁申し上げます。」自然に口をついて出てきた。

「羅恒だと?」李宏は姜恒が階段の下でしていた話を聞いていた。すぐに捕えるつもりだったが、突然その名を思い出した。「君はあの、汁琮を刺した男か!」

姜恒:「!!!」

太子霊は、姜恒が暗殺を実行し、鄭国軍が耿曙を捕えた後、各国の王に速報を出していた。李宏はすぐに出兵して落雁城を落とそうと兵の配置を開始した。

「聞いているのだ、そうなのか、違うのか!」李宏に怒りが見え始めた。

姜恒は言った。「はい、確かに私です。」

 

羅望もそうとは知らず、衝撃を受けた。実際、暗殺の内情まで知っているのは国君だけだ。「君は……。小兄弟、君の武芸はそんなにすごいのか。」羅望が尋ねた。

「ただのまぐれです。」姜恒は汗を拭いた。彼は太子霊に感謝の気持ちを抱いた。やはり自分と耿曙のことを各国に伝えないでいてくれたのだ。

「それなら国君を妄議した罪は許そう。」と李宏は冷たく言った。

「王陛下に感謝致します。」姜恒はほっとした。階段の下で言ったことを、李宏は全て聞いていたのだ。

「だがなぜ汁琮はまだ生きているのだ。」

「私は……私にもわからないのです。本来なら今頃とっくに死んでいるはずなのですが。」「なぜ君は汁琮を刺したのだ。」李宏が再び尋ねた。

矢継ぎ早の質問の仕方に、李宏の気性が現れている。姜恒にも交わしきれないほどだったが、それでもすぐに、「厚遇して下さる方がいますので。」と言った。

李宏は冷ややかに言った。「ふん、太子霊には高くついたな。」

「いいえ」姜恒は心の中に大胆な考えが浮かんだ。「王陛下にお答えします。太子霊だけではありません。話せば長くなります。」

「聞いてみたい。あの日どうやって手にかけたのか。中に来なさい。」

 

姜恒は羅望を見た。羅望はうなずいた。ついて行っても大丈夫だろうという意味だ。姜恒は国君の後について寺に入った。僧が茶を奉じ、李宏は姜恒にその日のことを詳しく話させた。

姜恒は一通り大体のことを話した。代武王の前でも臆することはない。かつては晋天子と朝夕付き合っており、天子の前でも泰然としていたのだ。代国国君は諸侯にすぎない。何を恐れることがあろうか。

 

李宏は問い続けた。姜恒がどのようにして汁琮を刺したのか、どこを刺したのか、血が出たのか、どれだけ出たのか。暗殺の理由や動機は気にならないようだ。ただ汁琮がどのくらい苦しんだのかを聞きたがった。

 

「よくやった。」李宏の最後の言葉は、姜恒の予想を大きく上回った。「孤王は、君が確かにその刺客だったと信じる。」太子霊の通伝の内容を知っている人はわずかだ。姜恒の言ったことはすべて正しかったので、李宏は疑わなかった。

「剣術を見せてくれるか。」と李宏はまた言った。

姜恒は急いで「そのような器ではありません。」と固辞した。李宏は「ふん」と鼻を鳴らし、突然「君は代国に残ることを望んでいるのか。」と言った。

「えっ?」姜恒は、汁琮を刺したことで、李宏の愛顧を受けるとは思わなかった。

「私は……まだ考えていません。」と言った。

「羅望の遠縁…」李宏はお茶を飲んでしばらく考えていたが、「まあよい、とりあえず君の叔父上について行きなさい。」と言った。

                                                                                                     

その時、門の外に誰かが近づいて来た。「父王」一人の青年が靴を脱いで入ってきた。「そろそろ宮殿にお戻りください。」

「ここにいるのは羅望の甥で、羅恒だ。」李宏は姜恒を指して、彼の息子に紹介した。「こっちは息子の李霄(リシャオ)だ。」と言った。

姜恒はすぐに体を曲げて彼に拝礼し、「殿下」と言った。

李霄は笑った。どこから来た人なのかもわからないが、「羅恒、暇があったら宮殿にも来てくれ。ぜひ親しくなろうではないか。」と言った。

李霄は英俊だが、目にわずかに邪気がある。彼から李宏の若い頃の顔が推測できた。王子であるが、従者でもある。姜恒は海閣で、羅宣から聞いた、代国王室に対する天下の評価を思い出した。太子の李謐は気弱で父を恐れる性格、第二王子の李霄はずるい性格だという。どうやら噂は本当らしい。

李霄は再び「父王、宮殿に戻りましょう。」と注意した。李宏は立ち上がった。姜恒は急いで後について寺を出た。李宏は振り返ると言った。「西川に来たからには叔父上によく遊びに連れて行ってもらえ。孤王としては当然ここに留まってくれることを望む。

 

姜恒は笑顔で言った。「陛下に感謝します。」

姜恒は落ち着いた態度で、主客逆転して李宏を送り出した。門の外で待っていた羅望が入ってきた。寺の僧は再びお茶を持って来くると、障子戸を開けた。外は青松に雪景色、それを雲霧が穏やかに包みこんでいて、心が晴れ晴れした。

羅望は「本当かい。」と言った。姜恒は笑って、「そうらしいですね。」と正面から答えなかった。「済州に詳しいのも無理はないな。」羅望は称賛に満ちた目で姜恒を見た。姜恒は気まずい思いをして「過ぎたことです。それ以上はご勘弁を。」と言った。その時、耿曙があわただしくやって来て、非難をこめて姜恒を見た。姜恒は自分の茶碗を彼に渡した。耿曙はまだ心が落ち着かないまま、少し飲んだ。

羅望は「聶兄さんはどうかしたのかい?」と尋ねた。

耿曙は心を落ち着けて、「何でもありません。部下の仕事が少し支障をきたしたので、商人をしかりつけてきたところです。」と言った。

羅望はうなずいた。耿曙は李宏に会っていなかったので、姜恒が単に散策しに来たのだと思っていた。お茶を飲み終えると、羅望はまた言った。「公子勝が埋葬された場所は、寺の後ろにある。行ってみるかい。」

 

父に殺された人の墓碑を見るのは、複雑な心境だ。墓地の遠くないところから見るだけにしておいた。梅園には話に聞く鐘山の巨大な鐘があった。薄暮の中、僧が鐘を突き始めたが、3回鳴らしてすぐ止めた。姜恒は好奇心を持ち、羅望が行ってしまうと耿曙に言った。「ちょっと考えてたんだ。もし9回鳴ったらどうなるんだろうって。」

「俺が鳴らしてやる。」

「やめて!」

耿曙は、姜恒の好奇心を満たすためなら鐘を鳴らしてやりたそうだった。鐘山には彼を止められる人は誰もいないだろうが、彼らを連れてきた羅望がひどい目にあうだろう。そうこうしていると、羅望が戻ってきた。彼らを家に招待しようとしたが、姜恒は婉曲に断った。彼は耿曙が何か言いたそうだったのに気づき、羅望とはまた後日会うことを約束して、先に鐘山を離れた。

 

案の定、耿曙は姜恒に姫霜の話を伝え、「どうしようか。」と尋ねた。耿淵の遺児という立場は、自分が思っていたよりも厄介だったようだ。姜恒も考えが定まらない。いったい誰がひそかに彼らの身の上を伝えたのだろうか。

「言うまでもないだろう。」耿曙は声を落とした。「太子霊のほかに誰がいるんだ?」

「いいえ」姜恒、「太子霊ではないはず。李宏が知らないのだから。」

耿曙:「彼はきっと知っている。」

「彼は知らない。」姜恒は、「知っていれば、李宏は何としても、あなたを見つけて殺してしまうはず。彼は今日、私があなたの父王を殺した経緯を事細かに聞きただしたのに、『耿淵の遺児』については一言も言わなかった」と思い返して再確認した。姜恒は自分の判断が正しいと信じている。そうでなければ説明がつかない。ではなぜ姫霜だけが情報を得たのか。

 

「誰かがあなたの結婚を台無しにしようとしている」と姜恒は考え、正確に推測した。「好きにすればいい。」耿曙は口をついた。「どうせ俺も婚約を断った。」

双方はまだ正式に婚約していない。つまり約束を破ったわけではない。耿曙は呼ばれて来たが、たとえ愛し合っていたとしても、一緒にいられないのは姫霜もわかっていたはずだ。

「彼女が好きなの?」姜恒は耿曙を観察して、顔色が少しおかしいと思った。

「愛してはいない。」耿曙は姜恒に言った。「でもいい娘だし、会っていて気分がいい。」姜恒は耿曙がつらいのではないかと思ったが、それほど気にしていない様子だ。そこで、笑って「そうだね。」と言った。耿曙は「もう手伝わなくていいなら、帰るか。」と言った。

 

ここは危険すぎる。耿曙は彼らの身元が明らかにされるのを恐れていた。李宏は何を置いても、彼ら2人を八つ裂きにして、死んだ弟の仇を討つに違いない。

「いいえ」姜恒は思い切って言った。「計画を続けよう。公子勝への罪を償うためにも。」

「冗談だろ?」耿曙は言った。「太子を救い出して、彼に謀反を起こさせ父を軟禁させる。それのどこが公子勝への罪の償いなんだ?」

姜恒は言った。「兄さん、公子勝のことを考えて。彼が求めたのは何?」

耿曙にはよく分かっていないが、今日羅望と話をしている時、突然姜恒はかつての自分を思い出したのだった。

「あなたは私が死んだと思っていた時、一番考えていたのは何?何をしたいと思っていた?」

耿曙は「わからない。目標がなく、生ける屍のようで、真っ暗闇の中、いつまで待っても夜明けが来なかった。」と答えた。姜恒は「そう。」と言わざるを得なかった。

耿曙は言った。「でも、お前が何を言おうと、俺はお前の言うとおりにする。条件はたった一つだ。」

「わかっている。」姜恒は言った。「決してあなたのそばを離れるな、そうでしょう?」

耿曙は今日姜恒と少し別れた時、すぐに心が落ち着かなくなった。鐘山では何も起こらなくてよかった。