非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 102

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第102章 平邦令:

 

ある夜、姜恒はあくびをしていた。だが耿曙は真剣そのもので、軍法改正について考えていた。姜恒は耿曙の様子を興味深げに見た。この人はいつからこんなにまじめになったのだろう。「まだ寝ないの?部屋に戻ったら?」「ここで寝る。」

姜恒があきれた顔をすると耿曙は少しむっとした。「聞きたいことがあるからだ。お前につきまとってるわけじゃない。ちょっといさせてくれたっていいじゃないか。」

「聞きたいことって何?明日じゃだめなの?」

耿曙は姜恒の手をひっぱって寝台に腰掛け、言い張った。「だめだ。忘れるかもしれない。」

耿曙はしばらく黙り込んだ。姜恒が、どうしたのかと聞こうとした時、耿曙が言った。

「お前の言うとおりだ、ハンアル。正にお前の言うとおりだよ。」

「私が何を言ったって?」

「お前の外族外務を読んだんだ。『平邦令』ってやつ。」「ああ、」姜恒は頷いた。「お前は俺よりずっとずっとよく考えている。俺はいつも悩んでたんだ。雍軍をどうしようかと。お前が答えを教えてくれた。」

 

そうか。耿曙の立場では、行軍やら軍事を除けば、兵を率いることが一番重要なことだ。あ、違う、きっと私のことが一番だけど、次に重要なのが、将軍という身分だ。「子供のころからそうだったよね。初めて私に尋ねたことからし孫子の兵法だったこと、よく覚えてる。」

「この数年、俺はいつも感じていた。雍軍には不公平なところがあるって。」

どこの世の中だって公平ではない。姜恒は聞いてみたかった。雍人同士なら公平なの?鄭人は公平?梁人、代人、郢人だったら公平かな?中原の全ての世は不公平であふれている。けれど耿曙の単純さを笑う気はない。むしろ、とても尊いと思う。

「それで?」姜恒は尋ねた。

「風戎人でもいい、林胡人でも、それに氐人でも。誰もが同じように扱われる。」耿曙は顔を向けて姜恒を見た。「気づかなかっただろうけど、あの日、お前が『私は天下人です。』って言った時、俺は目が覚めたような気がしたんだ。」姜恒はちょっとおもしろいなと感じた。耿曙だってずっと前に読んでいるはずだ。墨家の兼愛と非攻撃、道家の「天地は仁にあらず、万物を芻犬とする」などを。それと同じようなごく当たり前の話で、特別なことはなにもなかったのに。

「大雍は風戎人を同等に扱うべきだって俺は思う。彼らは軍功を上げ、血みどろになって戦っても千夫長までにしかなれない。そんな状態で戦地には連れて行けない。みな、兄弟のようなものなのに……ハンアル、この兄弟っていうのは俺たち二人とは別の意味だぞ。」

「わかっているよ。彼らは皆あなたの部下で、犠牲にすべき棋子ではない。捨てて良い物でもない。」

耿曙の朴訥な感性ではこんな風にしか表現できないが、姜恒は自分の言いたいことをわかってくれると彼は信じていた。死傷者の統計をとって、慰労金を申請するたびに、戦死した人々は空虚な数字と化す。家族を除けば彼らの人生にあった様々な出来事に関心を持つ人などいない。

「じゃあ、よっぽどの理由がなければ人を傷つけないでって言ってた意味がわかったんだね。」耿曙は思い出した。子供のころ鳥の卵を取ろうとして姜恒に止められた時のことを。

「でも風戎人のために戦うにはまず父王を説得しないと。工夫がいるだろうね。」

「俺の話だ。自分の言葉で伝える。」

 

翌朝。太子瀧の予想通り、姜恒が上奏すると、汁琮はたちまち警戒した。

「我が雍は建国して今に至るまで、雍人が国を治めることを主とし、外族を教化することを補助としてきた。その新法では、風戎、林胡、氐の三族を同等の地位にするという。姜恒、君はちゃんとわかっているのか、彼らがどういう連中なのか。」

 

林胡人と氐人は朝廷に仕官できない。風戎人は参軍して武将にはなれるが、朝堂入りはできない。姜恒の提案に朝廷は静まり返った。

「変法とは祖宗の法を変えることです。」姜恒は奏章を読み上げ終えた。その意味を聞き返す必要がないよう、一条一条をはっきり丁寧に読んだ。だが朝臣たちは反論した。

「国法は、祖先が建てて以来120年もの歴史を持つ。建国当初の祖先の法を廃棄してはならない。変法など全く必要ない。」

今、姜恒は朝廷すべての大臣の疑問に直面していた。

「これは……」曾嶸も呆然としていた。太子瀧は彼に相談していなかったのだ。

汁琮は外族が朝廷に立つことなど受け入れることはできなかった。これは彼の祖先が建てた国だぞ。

 

「父王」耿曙が一歩前に出た。「軍も、姜卿の言う弊害に直面していました。我が雍軍では、賞罰をはっきりしてきましたが、風戎人はどんな軍功を立てても、千夫長に留め置かれ、それ以上進むことはできません。これでは、将士たちが、雍国のために喜んで命を差し出すことなどできません。それは私が兵を率いた4年間、ずっと思っていたことです。風戎人も同じ軍功を得れば昇進すべきなのです!」

汁琮:「……。」

「気が狂っているとしか思えない!」衛卓は容赦なく言った。「姜卿、あなたは自分が何を言っているかわかっているのですか。あれらは皆、胡人です!野蛮人なのです!彼らに国を治めさせたら、大雍はどうなってしまうことか。林胡人は本も読まないし、字も書けない。風戎人は頑固で野蛮で、殺戮しか知らない。氐人は更に愚かで無知だ。先王は『量材為用』、用す為に材を量る国策で、雍人が胡人を統べる百年の大計を定めたのです。それなのに、あなたは今法を変えて、彼らを朝廷に仕官させるというのですか?」

管魏はコホンと咳をして言った。「衛大人お静まり下さい。」

太子瀧がついに口を開いた。

「国土に生ける民は皆我らの子たる民です。衛大人は彼らを何だと思っておられるのでしょうか。」太子瀧は巧妙に迂回して、汁琮への反駁を避けた。気の毒な衛卓は絶好の標的となってしまった。

「彼らは人なのです。我らと同じ。官員と軍隊は選抜制度によって不適合な者は除外されます。大人各位、そうでしたよね。選抜を通った官員は、我々雍人と同じく優秀でしょう。それならどうして同等に扱えぬのです?雍人であれ、胡人であれ、貴賤を問わず、公卿の家であれ、平民であれ、皆学堂に進み、漢人の書を学ぶ機会を与えるのです。そうすれば、国家は良材を得ることができる。林胡人や風戎人が雍人ほど賢くなかったとしても、学習の機会だけは与えるのです。篩にかけて残った特に優秀な者は我らと同等と見なせるはず。まさか、試験基準に異論をお持ちなのでしょうか?」

 

そして太子瀧は汁琮に向かって言った。

「父王、我々が今必要とするのは優秀な人材です。三胡が基準を満たさないのであれば、招かなければいいだけです。朝廷には失うものはありません。『有教無類』という言葉の通り、彼らに機会を与えてみましょうよ。」

 

「汁瀧の言う通りです。」耿曙は朝堂で滅多に発言しない。今の時点で既にここ一年で一番多く発言している。しかも太子を呼び捨てだ。「我らは皆雍人。雍人として物事を考える。だが、風戎人、林胡人、氐人の立場で物を考えたことがあるだろうか。彼らを雍人のための戦いに進んで行かせるためには彼らの思いを知らなければ!」

 

汁琮の表情は暗い。大雍は百年前の建国以来、雍人至上主義だ。雍人とは何か?万里の長城以南、中原世界の「人」にとって、外族とは何か。外族とは野人だ。毛を茹で血を飲む動物だ!人を動物と同列に論じることができようか。姜恒は、動物を朝廷に入れろと言っているのか?!

「彼らは人です。」姜恒は太子瀧の言葉を補った。「人の心を持った人なのです。心を持つ人は天下人です。王陛下が後顧の憂いを解消されたいなら、この『平邦令』を一読されれば、きっと……」

陸冀:「外族を入朝させれば、政策は彼らに向かって徐々に傾き、政議に影響する。風戎人は風戎の利益を優先し、氐人は氐人の利益を争うだろう。各民族の紛争が絶えなくなれば、少しずつ譲歩せざるを得なくなる。それは土地問題に発展するはずだ!そうなった時、あなたは各民族に土地の所有権を認めざるを得なくなる。姜大人、それが何を意味するかわかっておられるのか?」

「勿論わかっております。陸大人。その意味とは、彼らが自分の故郷での生活に戻るのを選べるということです。」

陸冀は言った。「ではこの国は、雍人の国土ではなくなる。あなたが彼らの土地に対する合法性を明らかにすれば、塞外のすべての土地は元々彼らのものだ。雍人はどこに住めばいいのだ?」

 

「土地はもちろん天子のものです。天子の名で各国に封じただけですから。晋天子はその位を六百四十二年受け継ぎましたが、どこに住むべきか疑問に思ったことがありますか。陸大人、目を覚ましてください!最初から、私たちの議題は土地、土地、土地だけです!聞いたことがありませんか?天下の土地を持っている者が天子になるのです。

つまり、民心を得た者が、天下を得ることができるのです!」

 

管魏は終始口をきかなかったが、陸冀と衛卓は姜恒の議論に驚いた。彼が東宮で変法を先導した者だとはよくわかっていたが、初めからこんな衝撃的な話題を投げかけるとは思いもよらなかった。

 

汁琮は口を開こうとしたが、太子瀧は父の言葉をさえぎった。「父王、我が大雍は将来、関を出て、乱世を終え、山河を統一します。あなたが天子になった時、私たちは落雁城を天下の都にするのですか。雍人がどこに行くべきか、それは非常に重要な問題です。」

彼はまた皆に向かって言った。「皆さんは落雁に住み続け、戦略を立てて、中原を千里の外から統治できると考えているのですか?」

汁琮は言葉を詰まらせた。太子瀧は一瞬にして話題をすり替え、陸冀には反論する点が見つからなかった--雍国の遠大な志は、関に入ることだ。姜恒の目線は遠大だった。

太子瀧は姜恒が「私は天下人です」と言った時、眠りから覚めたかのようだった。

彼らが求めているのは偏安な一角ではなく、関に入ることだ!関に入ってからは?

いずれは都を移す日が来るだろう。洛陽であれ、他の場所であれ、いつまでも塞外にいるわけにはいかない。居住条件の問題ではない。天子が落雁城に残り、神州を総括することなど無理だ。

 

衛、周、曽、王室に追随する三家の内、どの家が留まり、どの家が去るのか。すべての公卿が汁琮とともに関に入り、洛陽に移る可能性が高い。適切な分封があってこそ、雍国を一つにすることができる。

 

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人権についてのきれいごとだと思って読んでいたら、天下をとって遷都した後の守りの話だった。大臣たちと同じ思考回路で納得させられる、話の持っていき方がうまい!