非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 67

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第67章 初めましての挨拶:

 

避けて通れないこともある。

侍女が部屋の扉を叩いた。「殿下、霜公主がいらしてほしいと言っております。」

「行くものか。」耿曙は横になったまま起き上がらない。

「行った方がいいよ。無理強いする気はないけど、はっきり言うね。女性は思っていることと言うことが違うものだよ。ここを去る前にもう一度だけ会ったっていいじゃない。」

「お前が女性の何を知っている。」

「母さんもそうだったでしょう?」

耿曙はぐうの音も出ない。昭夫人は彼の生母聶七とは違う。確かに表情や言葉はきつくても、愛があるのは実感していた。「行って。」姜恒は耿曙を押した。「早く行って、もしかして大事な話があったらどうする?」

耿曙は考えながら、姜恒の目を見て、姜恒の手を見た。左手では耿曙の首の玉玦を引っ張って放さないが、右手では彼を押して、「早く行って。」と言っていた。

耿曙「……。」

耿曙は最後に玉玦を引き戻し、姜恒の口元に口づけしてから出て行った。

姜恒は笑いをもらした。耿曙をからかって遊ぶのは楽しい。

 

扉があく音がして耿曙は足を止めた。界圭の気だるげな声が響いた。

「王子殿下、落雁城にはもう一人、あなたに忘れ去られた弟がいます。彼は私にいつもあなたのことを守るよう言い続けています。」と界圭は冗談めかして言った。「あなたに何かあれば私も帰れなくなります。くれぐれもお気をつけて。万事うまくいっていますか?」

姜恒はそれを聞いて、界圭が二人を監視しに来たのだとわかった。「兄のことはほっといて。兄さん、あなたはもう行って。」

耿曙の足音は遠ざかり、姜恒は起き上がらずに部屋の中から尋ねた。「界圭、庭で寝ていては寒くないですか。」

「姜大人は私を一緒に寝させてくれるのですか?」界圭はにんまり笑った。「ご希望なら、王子が帰ってくる前に終わらせられますよ。試してみますか?」

「隣の部屋で寝ればいいのにと思ってさ。来てほしければあなたの札を裏返すよ。」と言った。(皇帝が夜伽相手を選ぶときみたいに?)「御意。」界圭は答えた。

 

姜恒が寝台に横になってぼんやりしていると、すぐに耿曙が帰ってきた。

姜恒は「話は何だって?」と言った。

耿曙は一言も言わず、武衣を身に着けたまま、寝台に転がってきた。姜恒は起きようとしたが、彼に押し倒された。

姜恒:「???」

耿曙は姜恒の両手を押さえつけて、彼の目を見つめ、「ハンアル、俺はもう待ちたくない、俺はお前に伝えたいことがある。」と危険な調子で言い放った。

姜恒:「!!!」

姜恒は突然大声で叫び、それから大笑いして、耿曙を抱きしめた。

耿曙:「……。」

姜恒は身を翻して逆に耿曙を押さえつけた。耿曙は眉をひそめ怒った。姜恒は手を伸ばして耿曙の変装用面具を剥がした。

羅宣「……。」

姜恒は大喜びだ。「師父——!!」

姜恒は羅宣の腰の上に乗っていて、羅宣は動けなくなった。姜恒は彼をくすぐろうとしたが、羅宣は左手を伸ばして姜恒の腕を押さえ、「ふざけるな。」と怒った。

姜恒は羅宣の腕を見たいと思って左手の袖をまくった。羅宣は姜恒にこれ以上振り回されないように、体を転がして無理やり彼から離れた。

「どうして俺だと気づいた?」羅宣が尋ねた。

「においが違うもの。」と姜恒は答えた。

羅宣は部屋に入る前には自信満々だった。悪ふざけして弟子をからかうとしたのに、ちょっと顔を見ただけで、姜恒に気づかれてしまった。

「そんなはずないだろう。お前の兄貴はあんなにきれい好きなのに、体臭があるのか?」

「あなたの匂いの方。ごくわずかだけど薬の匂いがした。」

羅宣はそばに座って、姜恒を見ていた。姜恒は彼に触ろうとしたが、羅宣は姜恒を遮り、冷ややかな表情で、「俺から離れろ。なれなれしくするな!そういうことは兄貴にしろ!」と叱った。姜恒は気にせず、うれしそうに羅宣を小突いてからかった。羅宣は何回か押し返したが、あきらめて姜恒の好きにさせた。

「海閣はどうですか?」姜恒は関心を持って尋ねた。

「鬼先生と松華は出て行った。」

「どこに行ったんですか?」

「海の向こうの仙山だ。」羅宣はさらりと言ってから、うんざりした口調で続けた。

「ああそうだ。俺は行かなかった。なぜかって?お前のことが心配でたまらず様子を見に行くためか?ア・リ・エ・ナ・イ。夢でも見てるんだな!」

姜恒は思ったことを羅宣に当てられて大笑いした。師父はいつも心とあべこべのことを言うのだ。「見せてください。」「見るな。」羅宣は眉をひそめて自分の袖に伸ばした姜恒の手を払いのけようとした。姜恒は譲らない。羅宣は自分で外袍を脱いで左手を出して見せた。「どうしても見たいなら、ほら見ろ。」

羅宣の左手の鱗は腕の上の方まで伸びていた。前に聞いた話では、鱗が心臓まで達したら毒が回って死ぬということだ。

姜恒「……。」

羅宣は片手で姜恒の首を絞めるふりをしたが、姜恒は身動きせずされるがままにした。

「治す方法はあるんですか。」姜恒は尋ねた。

「いいや。」羅宣は微笑みながら姜恒に言った。

「まもなく死ぬな。その日はそう遠くない。その時俺は七穴から血を流し、舌を長く伸ばして悶え死ぬ。そして鬼となって夜半にお前の元に現れ……。」姜恒は再び羅宣を小突いて笑った。「ふざけないで下さい。」

 

扉の向こうから闊歩する足音が聞こえ、耿曙が戻って来た。羅宣は出て行こうとしたが、姜恒は押しとどめた。兄さんに紹介したい。

「兄です。」羅宣に言ってから、姜恒に向かって紹介した。「師父だよ。」

耿曙は部屋から響いた姜恒のいつになく楽しそうな声を聞き、部屋に入って二人の親し気な様子を見て、一瞬表情が暗くなった。「お会いできて光栄です。」

羅宣は顔を向けて耿曙の様子を見たが、偉そうな態度で座ったまま、礼を返さなかった。耿曙より7、8歳年上なだけだが、立場的には彼らの父同等の前輩ではある。

「あの時、霊山で私を探し出してくれたのは師父なんだ。」

「うん、そう言ってたな。ハンアルの世話をしてくれたこと、感謝します。」

「どういたしまして、」羅宣は自嘲するように笑った。「ハンアル。」

 

部屋の中の雰囲気は一気に硬直した。姜恒は耿曙を見て、次に羅宣を見た。それから耿曙に目で合図した。『少しは敬って。』耿曙は界圭さえ目上と見なさない。羅宣など尚の事だ。しかし、彼は姜恒の師父であり、羅宣がいなければ、姜恒は今ごろ死んでいたのだと思おうとした。

「私たちに恨みはありませんね。」耿曙は色々考え、とりあえず父が相手の家族を殺していないかだけは確認しようと思った。

「いいや。」羅宣は笑ったが、その笑顔には皮肉が込められていた。「恨みがないだけでなく、恩がある。」

耿曙「?」耿曙には意味がわからず眉を上げた。姜恒の方は嫌な予感がした。「本当ですか。」

「そりゃそうだ。」羅宣は姜恒を見るともなく見つつ、耿曙に対して言った。「君はいらなくなった弟を俺に押し付けて四年もの間、居候させただろう。こんな大きな温情にどうやって返そうか考えているところだ。」

姜恒「……。」姜恒は心の中で思った。あなたは耿曙とそっくりだ。「他人」と「身内」の境界線がはっきりしすぎている。他人に対しては、本当に全身とげだらけになるんだから。

「いらなくなってなどいない。」耿曙は怒りを抑えて後輩の礼を守りよそよそしく言った。

「うん、いらなくはなかった。でも探しにも来なかった。俺には儲けものだったな。来い、やるか、あんちゃん。お知り合いになるとするか?それで、俺らは仲良しだ。」言うや否や、羅宣は左手の手袋を取って、怠惰な様子で耿曙に手を伸ばした。

耿曙も無言で左手を振り出した。何か言おうとしていた姜恒は顔色を変えた。羅宣と耿曙は既にお互い手をつかみ合っていた。「師父!!」

左手で羅宣の掌に触れた瞬間、赤く焼けたこてを握ったかのように、耿曙の腕の上段に向かって黒い気が広がった。「うん?なんだ?弟子よ、どうかしたか?」

耿曙「……。」

耿曙は羅宣が手を差し伸べた時に何かに気づいて、左腕に全内力を込めた。気を筋脈に送り、羅宣が自分の体内に送り込んだ猛毒に抵抗した。一瞬にして耿曙の掌は真っ黒になったが、全内力を送り込んだため、毒は手のひらに留まった。

羅宣の左手は焼けるように熱く、杭を打たれるような痛みをもたらしたが、耿曙はこらえた。毒素は絶え間なく蔓延し、手首にまで上昇した。

                       

姜恒は焦った。羅宣はなぜ顔を合わせた途端、耿曙をこんな風に扱うのか。しかしすぐに、羅宣は右手で耿曙の手の甲を押し、左手を勢いよく引き抜いた。

一瞬にして肌にひんやりとした感覚が浸透し、耿曙の毒はすっと解け、手のひらに異常もなくなった。耿曙は自分の手を見ず、冷淡に羅宣を見つめた。羅宣も初めて彼をじっと見た。

「話を続けてくれ。しばらく会わなかったんだから。」と耿曙は言った。

「兄さん、」耿曙は手を振って、自分から部屋を出ると戸口に立った。

「師夫」姜恒は眉をひそめ、小声で咎めた。

「俺がなんだ?」羅宣の口調は一転した。怒ったようだ。

姜恒はふと気づいた。羅宣は耿曙の腕前を試したのだ。彼が自分を守れるかどうか見るために。万感があふれた彼は羅宣のそばに座った。

「何でもありません。わかりましたから。」

「何がわかったんだ?」

姜恒の顔に自嘲するような笑みがこみ上げてきた。「兄さんは私を守れる。心配しないで。」

「蒼山で俺は何て言った?」

「山を下りたら誰も信用するな。頼れるのは自分だけだ。」

「それでお前は何をした。自分の命まで人に差し出して?」

「それは別の話です。あなたは、……知っているんですか?暗殺の件を?」

「お前は今では天下の大英雄だからな。汁琮に粉々に切り刻まれないよう気をつけろ。」

「じゃあ、私が捕まったらあなたは助けに来てくれる、そうでしょう?」

羅宣は嘲笑するように眉を上げた。「本当にそう思っているのか?」

姜恒は当然のようにうなずいた。だが実際は汁琮の元を訪れたあの日、彼は死を望んでいた。だれにも助けに来てほしくなかった。しかし羅宣には効果があった。漠然とまとっていた怒りは姜恒とのやりとりで消え失せたようだ。二人はしばらく黙っていたが、姜恒は戸口を見てから羅宣に言った。

「師父、」

「ん、」羅宣は姜恒の様子をうかがわずにいられない。「この何か月かでお前はやせたな。わかっているのか?」

姜恒は首のあたりを掻きながら笑った。「背が伸びたでしょう。」

「早く俺より高くなれ。」羅宣は不満そうだ。

「あなたに部屋を貸してくれるよう頼んであげる。代国にはいつまでいられるの?」

「やることがある。俺にかまうな。生きているうちに早く兄貴と出て行け。」羅宣は冷たく言った。

「そのやることって、、」姜恒はいぶかしんだ。

羅宣はしばらく考えてから率直に答えた。「お前には言っておいてもいいだろう。お前の助けにもなるはずだからな。それから海閣でやった試験にも関係することだ。」

姜恒は期待を込めて羅宣を見た。

羅宣は言った。「お前に替わって代国の上将軍羅望を殺してやる。」