非天夜翔 山有木兮 日本語訳 山には木があり 巻一《十面埋伏》 序章 琴鳴天下の変

非天夜翔が好きすぎて翻訳してしまいました。ひょっとしたら違法なのかもしれないと躊躇していましたが、作者の権利を侵害するほど読んでくれる人がいるわけもなく、原文も結構あちこちで公開されているようなので、一度載せてみて、だめなようなら、削除します。素人翻訳で間違いも多いと思います。翻訳権的な物は放棄しますが、もしおもしろいと思っていただけたら、原作を是非お読みください。

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架空の国同士の覇権争いがベースでBL要素は弱いです。

最初の2章は主人公たちの父親の話で、先にある程度わかっていないと複雑なので、説明してしまうと、名ばかりとなった晋帝国(架空の国で実在した晋ではない)の下に5つの封国がある。万里の長城の北にある(架空の)雍国を長城の南にある4つの国が連盟を組んでやっつけようとする。その会議の席上で、雍国が7年潜伏させていた刺客である主人公たちの父親が、四か国の要人を殺す。第3章からはそれから数年後、主人公の二人が、10歳、7歳で出会うところから始まります。

 

序章:琴鳴天下の変

第1章 山中厥:

 

昔、戦地に向かった時には、柳がゆらゆら揺れていた。

今、故郷に戻る道では 霙がびゅうびゅう吹き付ける

詩経・小雅・采薇》

 

最近、天気はあまりよくない。冬至の3日前、王都安陽の空には曇が厚く垂れこめていた。若き梁王畢頡(ビーシエ)はあせっていた。四か国連合のために招いた特使たちが全員同じ日に到着したのだ。宮中はすっかりバタバタしている。即位してから初めて催す大行事だというのに。

四か国が連合に調印する。四か国と言っても、実際は晋帝国封地された四つの候国だ。一番上の、天子がいるのは晋帝国。四か国はその下で、晋から封じられた王が治めている。

名ばかりとなった晋王国の下でバラバラになって覇権争いをしている五か国の内、万里の長城の北で猛威を振るう雍国に対抗するために、長城の南の梁、鄭、代、郢が連合を組む。

きっと晋帝国の行く末にも、諸候国の行く末にも影響を与えるだろう。なぜなら、雍を倒すための連合とはいえ、各候国には思惑がある。どこの国も、弱体化した晋帝国にとって代わり、自分が一番上の天子の立場に上りたいからだ。主催している我が梁国もまたしかり。いつか自分が天子になる可能性もあるが、逆に滅ぼされる可能性もある。

この事を考えると、梁王は緊張し、震える手が汗で湿った。

夕方になって、梁王 畢頡(ビーシエ)は諸国からの特使全員の到着を確認した。役人たちが、特使一人ひとりの様子を見に行き、「皆様、落ち着かれました」と報告してきた。

畢頡(ビーシエ)は一先ずほっとした。微妙な緊張関係を保っている四か国だ。特使に何かあれば即攻撃されてしまう。無事に受け入れが済み、それだけで肩の荷を下ろしたような気分だ。冠の房を外し、王冠をそばに放り投げると、腰帯を緩めて、足早に後宮に向かった。

『あれは花々が咲き乱れる春の日だったな。』夕闇が濃くなる中、梁王は1年前の出来事を思い出していた。

厳しかった老父王が「病に伏し」てから、7、8年の間、長兄は太子として国を治めていた。だがついに彼らの父が息を引き取ろうとしていた。畢頡(ビーシエ)は、父が崩御したら、自分がどうなるのか、よくわかっていた。王としての地位を脅かしかねない要素を排除するため、勿論兄に殺されるだろう。どうしたらいいかわからず、安陽宮の奥に隠れて震えていた。まるで刑が執行されるのを待っている囚人のようだった。

しかし一夜のうちに、すべてが変わった。上将軍が兵を集めて、先王が息を引き取るのを辛抱強く待っていたのだ。政変は突然起き、朝廷内が血に染まった。兄の商(ショウ)は宮中で焼き殺された。今では宮殿は改修され、惨劇が起きた場所も塗り直されてもいる。だが、畢頡はそこを通るたびに寒気を感じる。兄の怨霊が壁の中から現れ、いきなり剣を突きだしてくるような気がするのだ。私のために耿淵(ガンユエン)が母を刺した時のように、剣で喉を一突きに……。あの時、母后は兄を王にと推していたので殺さざるを得なかったのだ。

 

「皆の者、下がってよろしい。」畢頡は後ろに控えていた内廷の侍衛に言いつけた。そして、少し息を切らしながら山に登り始めた。安陽宮は山際に建てられ、四百年前は晋帝の避暑用の別宮だった。その後、晋帝国の力は弱まり、帝国を四つに分けて候国とし、候王に封じた。晋は四候国の主ではあるが、王都洛陽に留まり直轄はしない。梁の施王、畢氏はこの地と別宮を封じられた。畢氏が安陽宮を幾重にも増築し、大改築もした結果、絢爛豪華で巨大な王宮ができあがった。建物は岩山に何層も重なっている。それを杭柱を岩と絶壁に打ち込んで支えていた。瑠璃瓦はキラキラと輝き、柱には彫刻や欄画が施されている。

それから何代も時代が下ったが、大梁国の中原での地位は、堅固でゆるぎない。神州を見下ろすこの天宮と同じだ。ただ寝殿に帰るたびに、自分でこんなに長い山道を登らなければならないのは、本当に疲れる……畢頡(ビーシエ)は袖を上げて汗を拭いた。だからといって人に担いでもらうわけにもいかない。そんなことをすれば、王の体の良し悪しが噂になってしまうからだ。

そんなことを考えていると、寝殿から琴の音が聞こえた。耿淵が琴を弾いているのだ。畢頡の気分は上向いた。耿淵(ガンユエン)は彼専属の琴師だ。政変以来毎晩、畢頡が眠りにつくまでずっとそばに付き添ってくれている。政変の夜が悪夢と化したためだ。

先王が死に際に見せた恐怖の形相、華慶殿で焼かれて皮膚が黒く焦げた兄の姿、屠殺された鶏のように、生母の首筋から噴き出した鮮血の惨状……。

耿淵が傍についていてくれなければ、安らかに眠ることなど到底できない。

 

「何を弾いているんだ?気分が高揚する曲だな。」寝殿に帰ってきた畢頡はいつもの調子に戻った。だが、吊紗の奥で耿淵と向かい合って座っている背の高い武将が見えると、ちぇっと思った。『こいつ、いつ来たんだ。』まあ、来たからには仕方ない。見なかった振りもできないので、よそよそし気に「上将軍」と声をかけた。

 

この武将こそ、梁国上将軍重聞(ジョンウェン)、梁国の真の権力者であった。

「吾王の叔父上が来られたそうですが、お会いになるおつもりですか。」重聞が尋ねた。畢は複雑な気持ちだ。鄭国から来た特使は、鄭国上将軍、子閭(ズーリュウ)、彼は畢頡の叔父にあたる。自分が殺した実母の兄だ。

 

畢頡はよく考えてみた。「どう思う?……会議の前に叔父上に会っておこうか。屏風を挟んでの方がいいかな。」

「ふむ。」とだけ重聞は答え、しばし沈黙した。畢頡は考えを巡らせた。「やっぱり、今夜は会わないことにする。明日には会うんだ。昔話をするのはまたいつかにしよう。」と言った。

重聞は「吾王は成長されましたな。」と答えた。畢頡は多くを語らないことにした。机に着くと、左丞相から出された上奏書をめくりつつ、ちらちらと重聞を垣間見た。

琴師の耿淵は剣を一心不乱に拭いていた。一方の重聞の目は、夕日を眺めていた。

 

重聞も年を取ったな。畢頡は初めて彼に会った時のことが忘れられない。千騎を率いて万里の長城を出ては風戎族を討っていた。風戎族は当時から梁、代、雍三国で略奪していたのだ。

重聞の噂を聞いただけで敵が震えだすと言われたほどの勢いだった。

 

塞外(万里の長城の外)から勝利して帰ってきた秋には、重聞はまだ二十代で、畢頡は12歳だった。少年はいつも大英雄を慕っていた。あの日彼はつま先立ちして重聞を眺め、重聞も彼の視線をとらえると、文武百官の前を歩いてきて、彼の頭を撫でてくれた。

 

あの年の重聞は武威際立っていて、非凡な英気は、まるで鋭敏な巨剣のようだった。彼がいる限り、梁国に対し戦いを挑む者などいやしない。梁国と敵対していた雍国も、4年間で3回の大戦で打撃を被り、中原を攻める力を失った。天下の軍神の威名を成した重聞だったが、人は誰しも老いる。「戦神」と呼ばれた者も又しかり。

 

重聞はだんだん年を取ってきた。今はいくつだろう?四十歳には達している。往時の鋭さは収まり、鬢の間に何本かの白い霜が増えた。贅沢に暮らしている文官たちに比べ、風霜に耐えてきた風貌だ。しかし、梁国の誰もが、彼にはまだ兵を動かし、戦争をする力があると信じていた。

 

こんな絶世の名将は、ふつう王室の直系に忠誠を尽くすはずだ。だがなぜか自分の側に立ち、政変を起こし、自分を王として仰ぐことになった……。野心的な兄、太子畢商の方が重聞とは相性がよかったはずだ。重聞は口を開けば、いつでも先王の意向がどうのと言う。太子商は、中原を統一し、天下を制覇したかったのだから、彼と重聞は、最高の相棒になれただろうに。火の海に葬られた夜、兄は自分が何を間違ったのか分からず、泣き叫んで許しを求めた。

 

重聞は、鄭国で上将軍になった畢颉の叔父、子閭が好きではない。だが、今回の四国連合のために、子閭が奔走したことには間違いない。母方の叔父家(鄭国)と梁国王室には緊密な絆があった。しかしその絆は、1年前、重聞と耿淵が母を殺したことで、断ち切られた。

叔父は「母親は長兄に殺された」というたわごとを信じないだろう。きっと重聞による謀殺だと推測しているに違いない。それが自分を叔父に会わせたくない理由だ。

 

ただ今はみんなが、四国連合軍を編成して雍国を倒すという一致した目標を持っている。私的な恩讐はしばらく棚上げにしなければならない。そして成功して雍が滅びれば、梁と国境を接する鄭が、重聞の最大の敵になるだろう。梁、鄭、両国の上将軍たちは、互いに兵を率いて戦いを再開することになるのだ。

 

「北雍は外蛮夷の地であり、霊州で群れをなす凶悪な狼のようなものです。」

日が沈みかけた頃、ようやく重聞が口を開いた。「同盟の果たす役割は大きい。吾王は千秋万世の偉業を成し遂げるでしょう。」

「ええ。」畢頡は答えた。「明日の連合締結のことを考えると、未だに……夢の中にいるようだ。速すぎる、すべてが速すぎる。孤王は雍国を滅ぼすには10年20年かかるかもしれないと思っていたのに……」

 

重聞は立ち上がった。背の高い体を暮れ行く最後の日の光に向け、寝殿の外の高台に向かった。「吾王、」

畢頡は上奏文を置いて立ち上がると、重聞の後を追った。

「あなたの目の前のこの光景をご覧ください。時が来たのです」

畢頡は高台から下を眺めた。夕闇の中の安陽城外は、見渡す限り、梁国の四十万騎歩兵兵営で占められていた。各国から同盟のためにやって来た特使たちも、またそれぞれ一万に近い親衛隊を連れてきていて、城外に駐屯させていた。

いつか、自分は神州を統一する。今はそのための重要な一歩を踏み出す時だ。四か国の雄兵たち、彼らは最強の助力となるだろう。

安陽城市内を見れば、20万戸の明かりが灯っている。普天下に、安陽よりも豊かな城があるのだろうか。四百年前に晋文帝が天下を発令した時の王都でさえ、今の安陽城市には及ばない、これこそ本当の天子の国だ!

「雍国の蛮夷たちを陥落させる。これは王に始まり黎庶に至るすべての者の願いです。臣はあなたのために王旗を掲げて討伐を行い、すべての敵を掃討したいと願っています。これは始まりであり、終わりではありません。あなたのために戦い、天下のすべての土地があなたのものになります。その土地に住んでいる人すべてが、あなたを王として拝するのです。」

畢頡の胸は高鳴った。しばらくは何も言うことができなかった。

「ただ大業が果たされる前に、優柔不断になってはいけません。」

上将軍は再び畢頡に向かって一礼した。「臣は、これにて失礼を」そして、夕日の火雲をまとうように立ち去り、寝殿を離れた。

畢頡はしばらく黙っていた。軽くため息をつき、机に戻ってぼんやりしていた。

「明かりを灯す時間ですよ。」耿淵が暗闇の中で注意した。

畢頡は「お前がかまわなければ、もう少しこのままにさせてくれ。」と言った。

「目虐た者が、暗闇をかまうはずがありません。」耿淵は答えた。

 

耿淵は目の上に黒い布をつけていた。出会った時には、この琴師は既に盲人だった。

彼は琴の名手で、彼が琴を弾けば、鳥も羽を休めて聴きいるとさえ言われていた。世の中の動きを止めてしまうような音色なのだ。琴師の芸が頂点をきわめれば、天地を疎通できると言われている。畢頡は耿淵の音楽を聞いて知った。境地に至った音楽は、とっくに過ぎ去った時間でさえ取り戻してくれると。

 

耿淵と出会ったのはいつだったっけ。

不思議なことに、今日は昔のことばかり思い出している。重聞の記憶、耿淵の記憶、色々な人たちの……。王になった日の前夜も、何度も寝返りを打ちながら、子供の頃の昔から順々に思い返していた。しかし、今はだめだ。

 

明日は、四国の盟主となり、晋帝が盟主に授けた金剣を掲げ、雍国に討伐の号令をかける。重聞が言ったように、梁国が中原を統一するための一歩を踏み出すのだ。今は感傷的になっている場合ではない。

 

琴の音がそっと鳴り響き、畢頡は暗闇の中、琴師の姿をじっと見た。月の光が水のように寝殿に流れ込んできた。耿淵の琴の才は、重聞の威名と同じく天下に伝わるのに十分だ。だが、この盲目の琴師は深宮の中に喜んで留まり、かつて寵愛されない王子だった自分のためだけに演奏してくれる。

 

7年前、畢頡が宮廷を出て照水城に向かう途中、清らかな男の歌声が彼の気を引いた。

--耿淵は髪を乱し、目元を白布で覆っていた。白布には血がにじみ出て、両目を失ってまだ間もないようだった。彼が弾いて歌ったのは、「衛風」だった。

 

「自伯之東、首如飛蓬。無膏沐、誰適為容」

(夫が戦地に行ってから 私の髪は乱れたまま。

きれいにしたってどうなるの 誰のためによそおうの)

 

雍、梁二国の度重なる大戦のさ中、照水一帯は3年に及ぶ大干ばつに会っていた。

人々は餓死した。耿淵は黒い衣を着て、枯れ草の生い茂る広野の中に座り、愛しい人を懐かしむ歌を弾き語っていた。その姿は14歳だった畢頡の心をとらえた。

 

彼は耿淵を宮中に連れ帰り、兄や大臣たちの前で演奏させたが、その歌声が戦火の蔓延を止めることはなかった。梁国は北雍で負け続けていたが、重聞が帰朝し、戦で戦を止める形で初勝利を収めた。

耿淵は宮中に7年間住み、畢頡は彼の歌声に慣れ親しんでいた。かつて、兄に殺されそうだった時には、耿淵も一緒に殺されるのではと思い、彼を逃がそうとしたことがあった。

耿淵はそれを聞くと、「おっしゃる通りです。私たちはいずれ死ぬでしょう。あなたが先に行けば、私は後からついてきます。でも、あなたの兄君の手によって死ぬことはありません」と簡単に答えた。

 

耿淵は両目を失っていなければ、安陽ひいては天下に名をはせる美男であっただろう。

彼の白皙の肌、秀でた眉、高く完璧な鼻筋、謎めいた唇の線、琴を弾くすらりとした指。

もし黒布を外した時に、光り輝く夜星のような双眸が見えたとしたら、どれだけの人が心を奪われるだろうか。黒布をつけている今でさえ、月光に照らされた口元の曲線と鼻筋、その神秘的な美しさは、各国の名うての美丈夫に匹敵する。

 

そして、意外なことに剣の使い手でもあった。彼が黒剣を取りだすと、天地はすべて色を変える。引き締まった細身は、剣を手に握った瞬間、まるで別人のようになる。

重聞は早くからそれを見抜いていたようで、政変の夜、畢頡のそばにいたのは、耿淵ただ一人だった。

 

彼が剣を抜いたのを見たのはあの夜が初めてだった。兄の太子商は訓練された200人近くの甲士を送って、力の弱い王子を殺しに行かせ、殺害対象に盲目の琴師を加えたのだった。

耿淵は穏やかなしぐさで、琴の下から今手にしている黒い重剣を抜き出すと、戸口に立った。畢頡はびくびくしながら目の前の一幕を見ていた。鮮血が寝室の内外を赤く染め、次第に拡散していったが、耿淵の身を包む黒い衣から血が流れることはなかった。遠くの火の光が夜のとばりを明るくすると、風の中から太子の悲鳴が聞こえてきた。耿淵はようやく腰を下ろし、「今からあなたは梁王です」とささやいた。

 

畢頡はずっと不思議に思っている。耿淵はいったい何歳なのか。7年前の彼は確かこんな姿だったが、7年たっても全く変わらない。耿淵はほとんど宮中にいたが、たまに宮を出ることがある。畢頡は人をやって遠くからついて行かせた。部下の報告では、毎回安陽城中の同じ民家に行っていた。家には女性と子供が住んでいたそうだ。

 

「どうして私なんだ?」畢頡はこめかみを揉んで、また暗闇の中で軽くため息をついた。

宮女が寝殿に明かりを灯しに来た。耿淵はこの最後の暗闇の中で「あなたが一番ふさわしいからですよ。」と答えた。畢頡は少しやるせなさそうに、案に置かれた奏上文を見た。彼は繊細な人で、左丞相は彼が「哀れみの心」を持っているという。それが重聞にとって「一番ふさわしい理由」かもしれない。畢頡にも本当ははっきりわかっていた。百官たちは一言も言わなかったが、兄が地位を継げば、大梁国は権力の交代を迎え、重聞のような武将を制御するのは難しかっただろう。重聞が言うように、武将は、命に何の価値も見出さない。その生涯の目標は、梁のために千秋万年の覇業を築くことだけだ。

「早くお休みください。」耿淵は琴の底に剣を収めた。「明日は天下の大舞台です。この日は歴史に刻まれることでしょう。」

 

畢頡は「明日私と一緒に行ってくれるか?」と尋ねた。「お供します。」耿淵は言った。

この四国連盟では、刺客が軽挙妄動することはないはずで、武芸に秀でた琴師に守ってもらう必要はないだろうが、それでも畢頡は耿淵にいてほしかった。

この言葉少ない盲人とともに、自分は7年の時を過ごしてきた。彼とともに、無知な王子から、今日の梁王に成長した。多くの話を彼は他人に話すこともできず、すべて耿淵に向かって話すしかなかった。

耿淵は聞いても、ただ穏やかにうなずいているだけだったが、畢頡の気持ちをよくわかっていた。彼の喜びも、彼の恐れと不安もよく知っていた。このような大事な日に、耿淵がいなければ、若い梁王の心には穴が開くだろう。

彼の琴の音を一生聞きたいと思っていた。彼らが老いてこの世を去る日まで。