非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 39

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

ーーー

第39章 三者会議:

 

午後、姜恒は殿内に座り、考えていた。自分で簡単に描いた玉璧関南下の地図を広げ、洛陽と霊山一帯を迂回した場所に、いくつかしるしをつけた。

彼が済州に来てからもうひと月余りたった。秋の陽がうららかだ。霧が立ち込めた滄山の天気とはずいぶん違う。この秋晴れの天気の中では、いつもぼんやりしてしまい、動く気になれない。思いを馳せていると、太子霊(リン)が来て姜恒の思考を断ち切った。

 

「今日、羅先生(=姜恒の偽名)が何か言いたかったのはわかっている。」太子霊は言った。「殿下、どうぞおかけ下さい。」姜恒は答え、太子霊が孫英を連れてきたことに気づいた。太子霊は「今はあなた、私、孫先生の3人しかいない。羅先生、話があるなら、率直に言ってくれ。」と言った。

 

孫英は徳利を持って酔っ払っていた。花匠にぶつかりそうになったが、花匠はうまくよけて庭を出て行った。姜恒は考えながら、卓上の紙を広げた。孫英は横からじっと見て、笑いだした。「それでは遠慮なく。」と姜恒は太子霊に言った。

「孫先生が今日おっしゃった『伐交』の、交は雍国とです。」と姜恒は言った。

太子霊は呆然としたが、孫英は大笑いして、「そうだ!その通り!」と答えた。

姜恒は太子霊を見たが、太子霊は答えなかった。

「それがいいのかどうかは別として」太子霊は問い返した。「羅先生は本当に、雍国と同盟できると? 私たちがどんな条件を出したら、汁琮と取引できるのだろうか?」

姜恒は「それはもう一つの前提次第です。その前提が存在してこそ、雍国は私たちの同盟の議論に応じてくれる。つまり、彼らは崤山を攻撃しないはずです。」と述べた。

姜恒と孫英は顔色を変えた。双方はどちらも聡明でお互いの考えが読めていた。孫英はきっともうわかっている。雍国は今回勢いが強すぎる。目標は鄭国でないのだろう。

姜恒も、汁琮の目標が鄭国でないのなら、交渉はしやすいと考えていた。

 

姜恒は描いた地図を開き、太子に示した。「彼らの本当の目的地は、廃墟となった洛陽を越えて嵩県を直に取り、国土を拡張し、中原に最初の拠点を作ることだと推測されます。」

孫英は足をたたいて、「間違いない!嵩県は無主の地で、山に囲まれて水に面している。背後には洛陽、南には郢国の地がある。この地を取れば、郢、梁、鄭の3国の交差点を押さえ、そこから出兵して、どの国でも攻められる。」と答えた。

 

姜恒は、「雍兵が関内に来れば、どの国も必ず大敵に臨むことになりますが、誰も真っ先に出兵して制撃しようとせず、様子見の態勢を維持しています。それは雍国が嵩県を奪取するには最良の機会となります。汁淼(ジュウミャオ)が騎兵2万5000人を率いて急進すれば、軍は3日で嵩県に到着することができる。嵩県の駐留軍は3000で、ほとんど何の抵抗もできません。」と述べた。

 

太子霊が言った。「嵩県は天子の直轄地だ。姫珣(ジシュン)は崩御されたが、嵩地はどこの国にも属していない。雍国がここを占領すれば、確かに各国の領土に侵入したとは言えない、うーん、誰も雍を敵に回す理由がない。それで?あなたはどのように対応すべきだと思うか?」

姜恒は「事前に防衛を布告し、車(チェ)将軍に5万人を率いて関を突破させ、汁(ジュウ)軍の退路を断ち切る準備をしておくのです。その上で王都洛陽を守れば、嵩県では雍軍は必ず孤軍になるでしょう。」と述べた。

 

「でも!」姜恒は語気を強めた。「車将軍の部隊は十分に注意しなりません。もしこれが雍国の敵誘引策であれば、戦線を開いた後、汁淼に反撃される可能性が高い。その時、彼らが振り向いて洛陽に閉じ込められると、大変です。だから、少数の駐留軍だけで洛陽を守り、大軍は城外の四方に待ち伏せして対することを提案します。」

孫英は苦笑して、「その『連環計』は複雑すぎる。羅先生、雍人はそんなに頭がよくないと思いますよ」と言った。

 

姜恒は「そうとも限りませんよ。」と注意し、また大雑把に洛陽の四面地形を描き、「車将軍が一部の兵力を霊山峡谷に待ち伏せさせれば、雍軍が後ろ向きに攻撃を始めたら、峡谷の両道の伏兵で反撃できます。そうすれば雍軍の精鋭は必先鋒の半分以上は折れ、力をそがれる。」と述べた。

 

孫英は長い間考えていたが、「しかし、背後にはまだ10万人がいる。来るべきものは、遅かれ早かれ来るだろう。」と言った。姜恒は「この一歩が乱れさえすれば、私たちは先手を打ったことで、自然に同盟を話し合うことができる。鄭と雍は同盟を結ぶことができ、条件は……梁国を分割することだ。」

 

太子霊は「梁国を分割?羅先生、本気ですか?」

「ええ。汁氏雍国と密会し、梁国王都安陽、および周辺地域を安河に沿ってさかいとして、雍に渡し、照水以東、黄河下流に沿って、すべて鄭に帰す。鄭国は『梁人を守る』という名目で、それらを国境に組み入れる。そうすれば、鄭、雍二国はいずれも拡張され、代国は少しも利益を得られず、雍とまだ形成されていない同盟は、必ず瓦解し、なくなるでしょう。」

太子霊は眉を深く寄せた。孫英はその気持ちを推し量り、姜恒を見て、首を振った。姜恒は孫英の言いたいことが自然とわかった。『彼は承知しないよ。』

「殿下は恥を知る人です。」と孫英は皮肉った。

 

ひと月前の夜、姜恒は師門で鬼先生にこう分析した。天下を統一するには、鄭国から始めなければならない。天下を統一する第一戦も、玉璧関の戦いに違いない。雍国のことは最初に解決しなければならない。天下各国の雍国に対する敵意と憎しみが残っているうちに。

しかし鄭国に対する彼の認識は、少しはずれていた。最もはずれていたのは太子霊についてだ。彼の野心は自分が思っていたほど大きくない、あるいは、彼の城府は、自分が思っていたより奥深く、簡単に野心を漏らせないのか。だが、姜恒はまだあきらめきれない。

 

「そうすれば、五か国はこれで四か国になる。鄭、雍二国は大座を得ることができる。しかし、賭けてもいいが、雍国は決して彼らの新領地を統治する能力はない。塞外と塞内、2つの領地。彼らは2つの選択に直面するだろう。1:梁人を大勢、関内から連れ出し、雍都、落雁に住ませるか。2:塞外の民を関内に連れて行き、両族を融合させるか。どちらの選択をとっても、安陽は永遠に雍に属するわけではない。鄭梁は国境を接している。反乱を扇動するのは簡単だ。雍人が考えていることは、無邪気で世事を知らない子供のようだ。殿下は梁人門客を送り返し、安陽で官職につかせ、梁人を扇動させ、復国させることができます。」

 

太子霊は姜恒の話を聞き終わらず、「私にはできない。人の危機に乗じて、虎狼と結託するのは王道ではない。」と言った。孫英は想定内の答えを得て、膝を支えて立ち上がった。

「それであれば、殿下、ご心配なく。我々が兵を押して動かなくても、あの汁淼というガキは、決して崤山に来ません」と答えた。

姜恒は真剣に言った。「それならまだ第二の道があります。殿下、汁琮と同盟したくないなら、今回の出関を利用して、彼を関内に残し、二度と雍都に戻れないようにするのです。」

そう言うと、姜恒は「殺す」動作をして、太子霊に眉を上げた。「汁淼でも、汁琮でも、なんとかして取り除かなければならない。さもないと、一旦彼に嵩県を併呑されて、梁国全体を蚕食するのを座視するといのが、唯一の結末です。」

 

太子霊は姜恒を見て、「羅先生、実はそれが今日ここに来た理由なのだ。ひと月前、私が求めたことを覚えているか。」と言った。孫英はため息をついた。姜恒は眉を少し上げて、太子霊を不思議そうに見ていた。

「この計は孫先生が最初に提案したものだ。あなたは私のために汁琮を殺してくれないか。この方法は、有りだろうか?」

姜恒:「……」

 

姜恒は、太子霊の計略がこんなに直接的で、こんなに簡単だとは思わなかった。

孫英は言った。「この計は奇想天外ではない。羅先生、ご存じのように、北方はかつて汁琅、汁琮を首としていた。今は、太子瀧という汁系王族の嫡子はいても、結局は土台が不安定だ。」

「知っています。」姜恒は最初の衝撃を乗り越えた後、すぐに落ち着いてこの計画を受け入れてみた。まるで他人のことを話しているかのように。

 

「塞外の各民族の情勢は非常に複雑で、風戎、林胡、氐(ディ)の3族が雍人の6割を占めている。汁琮が死ねば、太子瀧は全国を掌握できなくなり、各民族はすぐに分立を宣言し、故郷に帰るだろう。雍人に深い恨みを持っている各民族も、機会を借りて汁系王室を倒すだろう。」

「うん。そうすれば、雍国の脅威は、自滅する。」孫英は言った。

「一つの方法としては考えられます。しかし、私の能力では、汁琮を殺すのは容易ではないでしょう。」

太子霊は言った。「ここに来る前に孫先生と相談したが、羅先生が提案した同盟計画は、第二の手として望みを残しておき、まずは相談しよう。」そう言って、太子霊は立ち上がって、入り口に行くと、外にいる侍衛を見て、「庭の外に出て、誰も入ってこないように。」と言いつけた。侍衛はうなずいて立ち去り、太子霊は自ら戸を閉めた。

 

 

夜、太子霊と孫英が去った後、姜恒は柄が湾曲した長剣を取り出し、黙り込んでいた。剣身を少し震わせると、水の波のように、部屋の中に波紋が広がった。剣が起こした風を受け、帷幕が舞いあがってちぎれた。

 

事態は姜恒の予想をはるかに超えていた。自分は太子霊のそばで信頼を得た策士になるのだと思っていたが、彼の秘密の刺客になるとは思ってもみなかった。

本当にめちゃくちゃな話だ。孫英が彼のために出した考えだって?

姜恒は羅宣がかつて言った、天下の五大刺客:耿淵つまり彼の父、項州、界圭、羅宣と謎の客を思い出した。

 

孫英は謎の刺客なのだろうか。姜恒は今日、太子霊が暗殺の詳細について詳しく話しているのを聞いて、『子承父業』『冥冥中命』というものを感じた。これが運命というものか。自分が選んだのが武芸でなくても、刺客の命数からは逃れられないのだ。

 

翌日、太子霊がまた来たが、今度はもう一人の武人を連れてきた。その武人は錦衣を着ていて、容貌は英気に満ち、体つきは凛然としていた。

「彼は趙起という。」と太子霊は言った。「私の母舅の遠い親戚で、母が亡くなった後、王陵で彼女のために墓を守っていた。彼をあなたに遣わすので、あなたは彼を自由にしてよい。趙起、羅公子に仕えることは、私に仕えることと心得よ。」

 

姜恒は必要ないと言いたかったが、太子霊が譲らないのを見ると、彼の好意を断ることができなかった。太子霊が趙起を一瞥すると、趙起は姜恒に向かって片膝をついて王室に忠誠を誓うことを意味する礼をした。姜恒は太子霊の暗殺計画を承諾した。礼に則れば国士である。

彼はこのようなやり方で鄭国のために働きたくはない。しかし、これらのすべては手綱を外した馬のように、交渉の余地もない。まるで彼を戦車に縛り付けて、玉璧関前の汁琮に突撃させるかのようだが。太子霊は言った。「ここ数日、先生は何もする必要はありません。孫英が全て手配します。」

「殿下」姜恒は突然言った。

太子霊は姜恒に眉を上げた。姜恒は、本当は言いたかった。私が学んだ多くのことを使わず、私を刺客として使うとは勿体ないことだと。しかし、最終的に何も言わないことにした。笑って手を振り、それ以上は言わなかった。

 

太子霊と孫英の計画は、「羅恒」の前半構想を継承したものだ。車倥(チェコン)を秘密裏に崤山に送り、汁淼の裏道を断ち切る。その後駆けつけた汁琮を玉璧関に残し、さらに策士を率いて、汁琮と交渉し、梁国分割の話を詰める。それから孫英は姜恒と協力して、交渉会議の場で、汁琮を暗殺する。

 

数年前、汁氏の兄弟は梁王畢頡(ビーシエ)のそばに棋子を1枚置いた。『琴鳴天下の変』。中原四か国の要人を殺したが、今度はそのつけを払う番なのだ。

姜恒は最終的に太子霊の提案を承諾した ---承諾するしかなかった。

心の中では、これが12万人の民の命を守るためだとはわかっていた。初めてその目を見た時から、太子霊が彼のような最適な刺客を長い間探していたことは、かすかに感じていた。孫英が最初の候補だったのかもしれないが、役柄上あまり適していない、というか、全く適さない。そこで彼は自分が現れるまで待っていた。

今まで考えたこともなかったが、この繞指柔剣を初めて手にとった時、最初に殺したいと思ったのは、確かに汁琮だった。自身の父と兄弟のごとく仲の良かった汁琮だ。

 

「公子、何かあれば、いつでもお命じください。」趙起の声が府中の静寂を破った。

姜恒ははっとして、趙起を見た。太子霊がこの人を自分のそばに遣わしたのは、仕える以外に、監視の目的があるのだろう。だが、彼は少しも気にしなかった。

「あなたはどこの人ですか。」

趙起は言った。「公子にお答えします。私は越人です。」

越人はみな武功の達人で、江湖の業を生業とし、越国も東の大国だった。50年以上前、鄭国は越を制圧した。その地を占領された越人は鄭民になったり、放浪したりした。

 

「家族は何人ですか。」姜恒は越地で病気を治療していた母親を思い出した。越地への恩義のために、太子霊を斬ってはいけないだろう。

趙起は「父も母もおりません。私だけです。」と答えた。

趙起は越人らしくない。越人は繊細な顔つきだが、趙起は眉が濃く目が大きい。体つきはそれほど大きくなく、羅宣くらいだが、目鼻立ちには身長と調和しない男らしさがある。

「誰にでも親はいるでしょう。」と姜恒は軽く言った。

趙起は「知りません。死んでしまいました。公子、何かご用命がありますか。」と答えた。姜恒は慌てて「大丈夫、座っていてください。」と言った。

趙起は「いつでも何かしなければ。座っているだけでは、落ち着きません。」と言った。姜恒はためらって、「じゃあ……私のことは気にせず何をしてもいいから、私のことを放っておいて。」と言った。

 

太子霊が彼のために派遣したこの侍衛は忠実だった。結局のところ、着替えて洗面し、ふとんを敷き、食事をするには、誰かがそばに仕える必要がある。これまでは、羅宣がすべてを管理してくれた。姜恒は疑問を抱いたことがなかったが、これからは自分のことは自分でできるように世話の仕方を学ばなければならないなと思った。

孫英は、暗殺がうまくいかなければ、全力で彼を守って脱出すると約束した。そうなったら、鄭国は準備をして、雍の怒りに直面しなければならない。

もしうまくいったら?姜恒は心の中で何度も演習した。汁琮を刺し彼が死んだら、自分はすぐに天下に名を轟かすだろう。ただ、彼はこのような方法で名を上げるとは思わなかった。滄山を離れ、入世する時の構想から大きく外れた。しかしうまくいけば、自分は鄭国で極めて高い地位を持つに違いない。次に太子霊を説得して、神州統一の大略に着手させて、これ以上支障がないようにする。ただ太子霊は果たして託す価値があるのだろうか。姜恒は動揺しないではいられなかった。

 

ーーー

(羅宣くらいの背丈で、顔と体の雰囲気が合っていない?)