非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 28

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第27章 照月刀:

 

夜になった。月が玉璧関を照らしていた。耿曙(ガンショウ)は寝茣蓙に横たわって機会を待ち、みんなが寝ているうちに、すっと起き上がった。

彼の足首には縄で絞られた時の血痕があり、血が固まってかさぶたができていた。

ここ数日、玉璧関全体の地形と兵力配置をほぼ把握し、わかった。すべての捕虜を逃がすことは不可能だし、自分だけでも準備なく南に逃げれば、必ずで途中で死ぬだろう。

捕えられてから9ヶ月目になる。姜恒(ジャンハン)はどうしているだろう。いや、あまり考えすぎないようにしよう。今頃きっと南方をさまよって、兄が探しに来るのを待っているはずだ。

雪崩の下で、生き伸びられたか?

耿曙はずっと頑なに、姜恒の死体を自分で見つけない限り、彼は死ななかったと考えることにしている。死体を見つけた時には?そのことは考えたことがない。

 

静かな夜だ。月が大地を明るく照らしていた。耿曙は眠っていた看守から短刀を盗んで、静かに壁に登った。こんなことは5年前の彼にとっては、日常茶飯事だった。

安陽から潯東に至る道中、彼はずっと黒剣を背負っていた。

 

裸足で音もたてず、少年の体を影の中に隠し、明るい目は孤独な狼のように、しかるべき時を待っていた。関城の内、内関門から百歩の辺りは、警備が厳重だ。慎重を期さねばならない……。耿曙は長い間待っていた。遠くから鶏の鳴き声が聞こえてきた。もうすぐ夜が明ける。彼は機会を見つけることができず、道を変えて屋根に登ろうとした。

 

しかし、ある一室が目に入り、耿曙は思わず中を見て、考えを変えた。

部屋には明かりがついていて、戸が半開きになっており、汁琮(ジュウツォン)が机について軍報をめくっていた。少し眠そうに、机の側にある杯を手に取ると、杯が空なのに気づいて、膝を押して立ち上がり、部屋の一角へと水を入れに行った。

耿曙は身を翻し、静かに部屋に入った。

汁琮は机に戻った。耿曙は屏風の後ろに立ち、ゆっくりと短刀を手に持った。

そして、汚れた足で地面を踏みつけ、次々と足跡を残して、灯りが届かないところから、闇に潜む妖狼のごとく、ゆっくりと汁琮の背後に近づいた。

汁琮は手の動きを止め、しばらく考えてから、目を上げて言った。

「お前が来ることはわかっていた。その様子からして、武を学んだ者のようだな。」

 

耿曙は体を横に倒し、音もなく、短刀を汁琮に振り向けた。汁琮はかわして立ち上がると、机の下から長剣を抜き出して、身を翻して耿曙の短刀をとらえた。耿曙は後ろに飛びのいてすぐ地上に降りた。汁琮は半歩退いた。一瞬の間に、耿曙は片膝をつき、汁琮の下腹と胸に向かって、短刀を横肘でまっすぐに差し込んだ!

この型には破解の道がない。もし耿曙が使っていたのが長剣なら、汁琮はその場で腹を裂かれていただろう!

しかし運悪く、耿曙が持っていたのは短刀で、剣の半分の長さしかない。汁琮は腹に届く前に手を返して、長剣をくるりと回して防いだ。短剣は再び交わり、ぶつかった。

しかし先ほどの短刀の衝撃は、危うく死にかけたことより汁琮を震撼させた。

 

「待て……君は……。」

一瞬、無数の記憶の破片が頭の中で渦巻いた。やっと分かった。この少年と目を合わせた時、瞳に見覚えがあった理由が。

「やめろ!」と汁琮は叫んだ。「話があるんだ!」耿曙は気が狂った野獣のように、再び前に飛び込んだ。汁琮は机を起こし、机は大きな音を立てて、耿曙にぶつかった。耿曙は机を突き飛ばした。体は宙を飛び、短刀を少しの容赦もなく、汁琮に差し向けた。

「何者だ?!」

「刺客がいる!」

外の守衛がすぐに警戒した。最後の瞬間、汁琮は誰もが理解できない行動をした。

彼は右手の剣を捨て、左手を耿曙の短刀の前に出した。手のひらで短刀の刃をとらえ、短刀は彼の掌を刺したが、彼の骨格に引っかかって、動かなくなった。

耿曙:「!!!」

続いて、汁琮は右手で耿曙を打って宙に投げ飛ばし、地面にたたきつけた。

目の前が暗くなった。耿曙は血を吐き、地を這って、咳をした。目の前の光景が急に近くなったり、遠くなったりした。

「陛下!」

「軍医に伝えろ!」

「陛下」の二文字を聞いた時、耿曙は首を回して汁琮を見た。汁琮の目は震撼に満ちていた。汁琮は「下がれ。」と命じた。

 

曽宇が駆けつけ、侍衛たちは耿曙を地面に押した。汁琮は短刀の柄を握ると、手のひらから抜いて地面に投げた。「カラン」という音がした。

「彼を起こしてやれ」と汁琮は言った。「ぼうず、来なさい。」

耿曙はゆっくりと立ち上がった。汁琮は襟を引き裂いて、自分で手に巻いた。そして、

曽宇に「みな出て行け。誰にも入って来させてはならない。今すぐ出て行くのだ。」と命じた。曽宇は侍衛たちと顔を見合わせた。汁琮が怒った顔をすると、全員書房を退出し、戸を閉めた。耿曙は隅の短刀をちらっと見て、それから汁琮を見た。

 

「あの型は『帰去来』という。残念ながら君が手にしているのは剣ではない。剣であれば、君は私の命を取ることに成功した。」耿曙は冷ややかに汁琮を見ていた。

「君は耿淵(ガンユエン)の何だ。その目、私には覚えがある。」

耿曙は呼吸が早くなり、血が湧いたようだった。よろよろとひざをついて地面に倒れかけると汁琮は急いで耿曙を抱きとめた。耿曙はもう疲れ果てていた。連日の大病で高熱が下がらず、汁琮を殺そうとして、最後の力を使い果たした。

 

夜が明けた。玉璧関では風が吹き、草が育つ、時は秋である。

雍国に連行される捕虜の列は、頭の見えない長蛇のようにくねくねと地平線にまで伸びた。そこを雍国騎兵が行ったり来たりしている。

関城内の高台にある5階建ての角楼にある正間の中。汁琮はこの日駐屯地を離れ、落雁城に帰る予定だったが、まだ去っていなかった。一晩眠らなかった後で、雍王の精神はかえって奮い立っていた。

 

汁琮は庁内の真ん中に座り、そばには耿曙が座っていた。耿曙は上半身裸で、肩、背中、腹、胸、全て傷だらけだ。矢瘡、刀傷、縄痕、新しい傷に古い傷が混じっていて、すでに若者らしくなってきた体には、色々な体験の記憶が残っていた。「王陛下、」軍医は耿曙を診察し、「この公子の傷は深刻なものではではありません。食事に気を付け、薬を飲めば、1ヶ月もたたないうちに、だんだんと回復するでしょう。」と丁寧に言った。

 

耿曙はおかゆを手に持ち、複雑な表情で、ゆっくり食べていた。

汁琮は彼の手の中の茶碗を見て、更に目を上げ、耿曙の目を見つめた。耿曙は彼と目を合わせようとせず、冷ややかに言った。「見るな。」

「お父上の遺体は、梁国で骨を砕かれ灰になった。私は死士を派遣して、何度も探したがだめだった。黒剣も行方不明だ。お母上はその後どうした?」

「死んだ。」耿曙は声を曇らせた。

耿曙が粥を食べ終わると、汁琮は「もう一杯食べなさい。」と言った。

耿曙はもうおなかがすいてしかたがなかった。熱いおかゆがおなかに入って、やっと力を取り戻した。

「ここ数年、私は君を探していた。こうしてようやく見つけることができた。」

耿曙は「俺が偽物だったらとは思わないのか。」と皮肉った。

「君の目は、お父上にそっくりだ。今はもう、あの目を見たことがある人は多くない。ずいぶんと昔のことになった。」汁琮が答えた。

耿淵はまだ目が見えるうちに、汁琅、汁琮兄弟と知り合いになった。10年以上前、雍都宮内でのことだ。汁琮は永遠にこの明るい色の目を忘れられなかった。しかし、耿淵が自分の目を突き刺し、黒い布をつけて梁国に行った後、彼の本来の姿を見た人はいなかった。耿曙の母でさえ。姜昭の侍女聶七は、耿淵の本来の顔を見ることができなかった。

「昭夫人は?」汁琮はまた言った。

「亡くなった。」耿曙は2杯目の粥を飲み終え、「恒児(ハンアル)まだ知らない。知らなくていいんだ。」と答えた。汁琮は3杯目を与えるように命じた。「つまり、君には弟がいる。」耿曙は答えず、最後のおかゆを受け取った。

「誤解しないでくれ。私の本意は、君の身元を探ることではない。だが、昔のことを思い出しすぎて、知らないことを聞かないと、安心できないのだ。

君が耿淵の子供でなくても、私は天に感謝すべきなのかもしれない。君が私をだますために送られた偽物だったとしてもかまわない。」汁琮はまたため息をついた。

その時、外で戸を叩く音がした。

 

曽宇が小声で言った。「陛下、あなたのおっしゃった物を見つけました。投降兵を管理している千夫長が持っていました。彼は確かに少年の体からこれを見つけましたが、報告せずに自分のものにしたそうです。」

「持ってこい」と汁琮が言った。

 

曽宇が赤い布を持って入って来た。布の中から玉玦が透けて見えていた。

汁琮が赤い布を解くと、中には耿曙の玉玦が入っていた。

彼は玉玦を手に取り、息をのみ、震える指で玉玦の表面に触れた。まるで耿淵の魂がその中に宿っているかのように。

耿曙は口をきかず、目の縁が赤くなった。玉玦を見ると、姜恒が彼のそばにいるように思えた。彼の懐に横になり、彼の足を枕にして、頭を上げて笑っている。

汁琮は玉玦を耿曙に差し出し、耿曙は一言も言わず、それをつけた。その動作はとても自然だ。「これはお母上が生前、落雁の宮殿に置いていた剣だ。」と汁琮は言った。「とっておきなさい。」聶七の剣は細くて薄く、剣の身は触れると折れそうで、身を刺すような冷たく輝いていた。耿曙は最後のおかゆを飲み干すと、剣の柄をつかんだ。「君がまだ考えを変えていなければ、いつでも私を殺すことができる。」と汁琮はまた言った。耿曙は沈黙し、最後に剣を収めた。

 

日暮れ時、汁琮は馬車に乗り、玉璧関を離れた。

耿曙は車の中に座り、汁琮に寄りかかって寝てしまった。汁琮の肩は大きくて温かく、彼は再び父の夢を見た。まるで幼い頃安陽にいた時のようだった。

父は時々母子を見に来て、卓についていた。母が食事の準備に行くと、小さな耿曙は目の見えない耿淵の懐に横たわって、断続的な琴の音を聞いていた。彼の両手を見つめ、時々弦をかき乱した。

 

車隊は関門を出て、北へ向かった。堂々三千人近くの御林軍が汁琮を護衛して帰朝する。沿道の草の海に波が立ち、空は洗われたような、深い藍色だった。

夕方、耿曙が車中で目を覚ますと、そばにはまだ汁琮の体温が残っていた。彼はすぐに横を向いて外を見た。汁琮が外で御林軍に何かを言いつけているのが聞こえた。

「よほど疲れていたのだな。だが充分寝たのではないか。外に出てみるか?」

 

耿曙の全身は砕け散ったかのようにひどく痛んだが、車を降りて、周りを見回した。

汁琮は「馬に乗りたいか?習ったことは?」と言った。

耿曙は「少し。」と答えた。

汁琮は彼を支えて馬に乗せた。大勢の御林軍兵士が見守る中、耿曙を草原へ連れ出そうと自ら馬の手綱をとった。しかし耿曙は突然両足で馬腹を挟み、「ハァッ!」と叫んだ。王騎は一瞬にして風のように飛び出し、汁琮の手を振りはらった。

御林軍兵士は激怒し、すぐに前に出て叱責したが、汁琮は大笑いして、大丈夫だと合図した。

遠くへ走り去る耿曙に目をやると、自分のためにもう一頭馬を引いて来させた。そして身を翻して馬に乗り、耿曙を追いかけて行った。耿曙の馬は疾走したが、反対の方向である南に向かって行った。汁琮は馬を御して追いかけ、「帰りたいのか?」と尋ねた。

「ドゥ!」耿曙は馬に乗ったことはあまりなかったが、馬を御すのは型どおりにすればいい。草原の真ん中で、夕日を受けて止まっていた。

玉璧関が遠くに見え、金紅水墨画のような黒い影となっていた。

「これはお父上が命と引き換えに、私のために取ってきた土地だ。」

「でも父は死んだ。」耿曙は声を落とした。

「生まれてきたからには死ぬものだ。誰でもそうだ。」汁琮は淡々と言った。

「君は生きている。蒼天が私に与えてくれたのだ。」

耿曙はしばらく黙っていたが、馬の首を反して汁琮のそばに戻り、2騎は肩を並べて宿営地に帰って行った。

 

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(耿曙、ちょろい奴だな。でもどんなに恒児を愛していてもいつも兄という立場だと気が張っていて、ふと息子扱いされたらホロリとしてしまうこともあるだろうな、と思わせる書き方うまいと思う。)