非天夜翔 山有木兮 翻訳の練習 85

非天夜翔が好きすぎて自分が読むために200話翻訳しました。万が一同じような趣味のかたが読んでおもしろいと思って下さったら是非原作を正規のルートで手に入れて読んでみてください。営利目的ではありません。要求があれば、すぐに削除します。

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第85章 放たれた炭火:

 

姜恒は背筋が寒くなった。自分は大きな過ちを犯したのだ。界圭を見誤った!界圭は刺客だ。刺客には道徳心はない。彼らの人生においては目的だけが重要だ。1つの目的のために、彼らは道を塞ぐいかなる人をも殺すことができる。父、耿淵のように。人を殺すのに決して手加減はしない。一人でも百人でも、例え何千何万人も殺したところで、彼らにとっては何の違いもないのだ。

 

界圭は帰朝した時、外族と結託した罪を被りたくなかった。それで彼は雍軍に知らせた。彼らを招き入れ、林胡人を討伐させたのだ。

界圭はゆっくりと言った。「ご理解ください。この世に、お兄上以外で、私のように誠心誠意、あなたを愛し、あなたのためを思う者はいないのです。」

「地獄に落ちろ――!」姜恒は激怒し、咆哮した。

 

界圭は少し悲しそうに笑った。洞窟の外から慌てふためく声が聞こえた。郎煌が呼び寄せた人達だろう。姜恒は今ではかなり林胡語がわかるようになっていた。話の内容も聞き取れる。郎煌は『彼を守ってできるだけ早く峡谷から逃げさせろ』と言っている。『何としても彼らの身の安全を確保せよ。』

界圭は立ち上がり、ゆっくりと洞窟の外に出ると長剣を抜いた。

姜恒は深く息を吸ってから、自分の手を残り火の上に置いた。

界圭は苦もなく彼らを追い払った。姜恒の気持ちを気にしてか、殺しはしなかった。

だが振り向いた瞬間、姜恒の怒りに直面した。彼も過ちを犯した。姜恒は羅宣から武芸をあまり学んでいないと思っていたのだ。それは間違いだったことが証明された。

赤く焼けた炭が手を離れ、飛んできた。流星のように炎がはじけ、火の粉が四方に飛び散った。よくある暗器とは比べものにならない。界圭はすぐに身を引いた。すかさず姜恒は体を傾け、彼の剣に体当たりした!剣を収めなければ姜恒の体の急所を突いてしまう。反射的に界圭は剣を収める。そこへ姜恒が界圭の胸を突いた。焼けた炭が界圭の左目に当たった。

姜恒は全力を込めて、界圭を低い坂の下へと突き落とした。

界圭は声も上げずに、暗闇に落ちて行った。

姜恒は息をつくことができない。界圭の実力はわかっている。この程度で死ぬはずがない。彼は身をかがめて暗闇の中を探って界圭の長剣を拾うと、低い坂の反対側に駆け降りて行った。

林の中から音がした。界圭が追いかけてきた。

姜恒は火の光が見える方向に走って行った。郎煌はすでに林胡の最後の兵士たちを村の前に並べて、列を組ませていた。暗夜に小雨は降り続き、松明はパチパチと音を立てた。

 

「煌!」姜恒は叫んだ。

郎煌が振り返った。「君を先に逃がす!」

姜恒は手を振った。無名村の四方八方、崖の上、村の入り口、どこを見ても蛇行した松明だらけだ。界圭はそれ以上追いかけてこなかった。多勢を避け、暗闇の中に身をひそめ、姜恒を連れ去る機会をうかがっていた。

姜恒は村の外に向かって言った。「誰の隊だ?隊長を連れて来させろ!」

郎煌は姜恒に言った。「彼らと交渉するつもりはない。君は逃げろ。君の記録に私のことを書いてくれ。」

姜恒は郎煌の手にを弯刀を持たせた。「それを私の首にあてて、村の入り口に連れ出して。」

「君は我々の友だ。そんなことはできない。」

「言うことを聞いて!」姜恒は怒った。

郎煌はしばらく黙ってから言った。「君の正体は知っている。神医。」

姜恒は郎煌の目を見つめた。郎煌はもう何も言わず、刀を抜くと姜恒の首にあて、彼の肩を押して村の入り口まで連れて行った。界圭は暗闇の中で小さなため息をついた。

一歩、二歩と、林胡を取り囲んだ戦士たちが後退していく。

 

「父に会ったことがあるの?」姜恒は聞いた。

「ある。風羽は我々が彼に送った神鷹だ。」郎煌は暗闇の中で囁いた。「あれを山に連れて来るべきじゃなかったな。私には遠くからでも見えた。……まあいい。君が何をしに来たかはわからないが、きっと何か理由があったんだろう。」

「ちょっと待って。人違いをしていない?私は汁瀧じゃないよ。」

「君の名前は火偏だった。三水ではなく。」

「もちろん違うよ。私は汁炆でもない。彼はもう死んだ。」

郎煌はふと刀を離して、遠くからの光を頼りに疑わし気に姜恒をうかがった。

「それじゃあ、君は誰なんだ?」

「私は耿淵の息子で、名は姜恒。それが本名だ。」

「耿淵?ああ、わかった、あの刺客か。」

「刀をしっかりあてて。話の続きはまた。もしお互い生き延びて再開できたらまた話そう。」

郎煌は姜恒を村の入り口まで連れて行った。姜恒は言った。「私が一言、あなたが一言。」

郎煌は答えた。「何て言うべきかはわかる。」そして遠くにいる雍軍に向かって叫んだ。

「それ以上一歩でも近づけば、彼を殺すぞ!」

姜恒は何も言わない。郎煌はつぶやいた。「奴らはあなたたちの命を助けようとしないかも。」

 

「私は姜恒だ!彼らを逃がして!もし私の死をのぞまないなら。」

雍軍の騎馬隊が道を開け、黒い鎧をつけた騎士が出て来て姜恒の前に来た。

「恒児?」年若い騎士の声がした。耿曙だ!これですべてわかった!界圭は山を下りた時、耿曙に出くわしたに違いない!彼はこの近くまで来ていたのだ!

甲冑で完全武装した耿曙は頭盔を押し上げた。見ていることが信じられない。

「界圭はどこだ?!お前を守るために先に行かせたのに!どこに行った?!」

界圭は高い崖の上に現れ、口笛を吹いた。

 

耿曙は怒り心頭だ。姜恒は兄に向かって走り寄りたい衝動を抑えて言った。

「兄さん、全軍を撤退させて。」

「君は汁淼の弟なのか?」郎煌は懐疑的だった。

「そうだったら今は本当に私を殺したくなった?」姜恒は振り向いて聞く。

郎煌は手にした刀を握りしめた。「私の頭を切り落としたら、あなたも死ぬことになるけど、復讐は果たせるよ。兄は一生苦しみ続けるはずだから。」

「君に罪はない。君は殺せない。行ってくれ。」

「それは駄目。兄さん!」

 

耿曙の先ほどの迷いは、人質を取り戻すために軍を撤退させたくなかったからではない。怒りが理性を飲み込んでしまったからだ。今彼は、この距離で、姜恒を無事に救えるか、また郎煌をとらえて、姜恒を人質にした代価として、彼を八つ裂きにしてやれるかを計算していた。だが郎煌の刀がどこにあるかを見れば危険はおかせない。

「鐘を鳴らせ。撤収だ。」

雍軍に耿曙の決定を疑う者はいなかった。絶対服従し、異議はない。耿曙の号令により、崖の上で金鉄を打つ音が3回鳴った。蛇行した松明が山道を回り、次々と撤去して行った。

姜恒は言った。「路を空けて。彼らに時間を与えて、逃がしてあげて。」

「言ったことは実行する。弟を解放しろ。今回は運がよかったと思え。」

郎煌の目には憎しみが溢れ、両目が充血していた。だが王子として自制した。「いずれまた。」郎煌が刀を下ろすと、耿曙はすぐに馬から降り、姜恒に向かって走った。

姜恒も歩こうとしたが力が入らず、耿曙の腕の中に倒れこんで彼にしっかり抱き着いた。耿曙は本当に約束を守った。雍軍は無名村を再び取り囲むことはせず、道を開けて彼らを逃がした。彼は姜恒の手を引くと、暗闇の中、頭を下げて彼を見た。冷たい鎧に包まれた全身が雨に打たれている。姜恒は何度も振り返って、郎煌と彼の部族たちが無事に撤退したことを確認した。

 

夜が明けようとしていた。林胡人は彼の貨車と薬、食べ物を村の中央の空き地に残し、何も持って行かなかった。車の上に布切れが置いてあった。炭で一行文章が書かれている。

『也答は置いていく。生き延びられたら来るだろう。恩には報いる。仇には償わせる。』傍らに郎煌がいつもつけていた面が置いてあった。記念として姜恒に贈ったのだろう。

 

空が明るくなった。姜恒はガランとした村落の中央に立ち、振り返って耿曙を見た。耿曙は姜恒に振り回されて途方に暮れていた。「言っただろう……なぜ俺を連れて行かなかった?あんなに言ったのに…」姜恒の表情は暗かった。

「界圭があなたを呼んで来たの?どうして彼らを抹殺しようとするの?」

耿曙にはわけがわからなかった。「俺が来なかったら今頃お前は生きていられたか?」

「一人で来たって良かったし、手紙で私を呼び出すこともできたはずだ!私はもうここの人たちの治療を終えて出て行くところだったのに!」

「奴らはみな反賊だぞ!朝廷が知ったらどう思う?!」

 

姜恒は怒っている人と言い争うのが苦手だ。それにいつかのように耿曙を怒らせて彼の体が傷つくのは嫌だった。そのため心の中に憤怒の念を抱え、かんかんに怒ったまま車に乗り、急ぎ村落を離れた。界圭が木下から走り出て姜恒のほうにやって来たが、姜恒は大声でどなった。「二度と私の近くに来ないで!」

「どうしたって言うんだ?」耿曙は自分の親衛隊員の前でも誰をも気にせず姜恒に言う。「まだ俺に腹を立てているのか?!」

姜恒は当然死ぬほど腹をたてていた。この怒りは界圭や耿曙の行いに対して向けられているのではない。こうすることが当然だ、何の問題もないと思い込んでいる皆の態度が許せないのだ。私が間違っているのだろうか?姜恒はすでに自分に懐疑的になり始めていた。彼の言うことは間違っていないの?正体がわかってしまったからには林胡人は全員抹殺し、根絶やしにすれば、後顧に憂いを残さないのか?

「もう誰も私にかまわないで!私は殺しに来たのではない!救いに来たんだ!人殺しはみんな死んでしまえばいい!」

 

耿曙は姜恒に会ったら話そうと思っていたことがいっぱいあった。三月近く離れ離れになって、心配で心が焼け付くようにひりひりとしていた。騎兵隊を演習に連れ出しても、姜恒が各地を訪れるたび、耿曙はそこへ軍を引き連れて探しに行きたかった。だが軍令は山の如し。任務中の身の上では持ち場を離れることはできなかった。

今回ようやくお互いの目的地が近づいてきたのに、姜恒は東蘭山に到着してから、居場所を知らせようとしなかった。耿曙は山陰城外での練兵中、斥候を派遣して探しに行きたい思いにかられていた。

そんな時、ついに界圭を見つけ、急いで駆けつけてきた。姜恒の無事がわかり、すぐにでも連れて来て世話をし、かまってやりたかった。痩せていないか、日焼けしていないか。嫌な目にあわなかったかを聞きたかった。それなのに、姜恒は仇ででもあるかのように、会うなりまず彼をののしった。耿曙はただ気持ちがふさぎ、ほとんど話もできなかった。

 

 

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耿曙のバカ―!界圭のアホ―!